青山真治監督は、フランスでどう評価されてきた?初期作品『チンピラ』が上映、仏評論家のおすすめは『SHADY GROVE』

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青山真治監督は、フランスでどう評価されてきた?初期作品『チンピラ』が上映、仏評論家のおすすめは『SHADY GROVE』

現在開催中の「第35回東京国際映画祭」と国立映画アーカイブの共催企画「長谷川和彦とディレクターズ・カンパニー」の特別上映「映画監督・青山真治」で30日、青山監督の監督第2作となった『チンピラ』(96)が上映。上映後のトークショーにフランスの映画評論家クレモン・ロジェが登壇し、海外から見た青山監督作品の印象が語られた。

ディレクターズ・カンパニー製作の黒沢清監督作品『地獄の警備員』(92)に演出助手として参加していた青山監督は、『Helpless』(96)で長編監督デビュー。その後様々な作品を世に送り出し、今年3月21日に逝去。今回上映された『チンピラ』は金子正次の遺稿を大沢たかお主演で映画化した作品で、四国から上京してきた喧嘩っ早い洋一と、うだつの上がらない中年男の道夫の友情を描いた物語だ。

【写真を見る】大沢たかおが血気盛んなチンピラ役に扮した、1996年に青山真治監督の長編監督第2作『チンピラ』
【写真を見る】大沢たかおが血気盛んなチンピラ役に扮した、1996年に青山真治監督の長編監督第2作『チンピラ』[c]1996 金子正次/タキコーポレーション

「1970年代や1980年代に長谷川和彦監督や相米慎二監督がフランスに紹介された後、しばらく期間が空き、1990年代になって日本映画界の新しい映画監督として紹介されたのが黒沢清監督や篠崎誠監督、河瀬直美監督。それと同じ時期に青山真治監督も紹介され、私もフランスの観客もそのころに彼を発見しました」と、青山監督作品との出会いを振り返るロジェ。

最初に衝撃を受けた青山監督作品として挙げたのは、第53回カンヌ国際映画祭に出品され国際批評家連盟賞を受賞した『EUREKA(ユリイカ)』(01)。「カンヌでは観ることができずに、その後DVDで鑑賞しました。青山監督の生まれ育った北九州の情景やバックグラウンドを含め、初めて観たときに彼の世界に引き込まれて、強い衝撃を受けたことをいまでも覚えています。ジム・オルークの音楽と映像との一体感も見事で、まさに映画に没入する体験でした」と絶賛。

海外の映画祭での受賞歴もあった青山真治監督。フランスの観客はその作品世界をどう見たのか?
海外の映画祭での受賞歴もあった青山真治監督。フランスの観客はその作品世界をどう見たのか?Photo by Masayuki IKEDA

そして「フランスの観客にとっては、『EUREKA(ユリイカ)』以後が日本映画の新世代。その後青山監督の作品は『月の砂漠』が上映されましたがあまり受け入れられず、10年近く経ってから『東京公園』が公開されて再び知られることになりました」と語る。また『チンピラ』をロジェが最初に観たのもDVDだったそうで、「フランスではなかなか観る機会のない作品ですので、こうしてスクリーンで観ることができるのはとてもすばらしいことです」と目を輝かせる。


同作の魅力についてロジェは「構成やシークエンスの流れ、長回しを用いて役者たちのアクションを見せる方法など、この『チンピラ』という作品には以降の青山監督作品でもあらわれる彼の才能が垣間見えます。出演されている寺島進さんをはじめ、北野武監督作品の常連俳優の方々はすでにフランスでも知られていたので、リアルタイムでフランスに紹介されなかったことがとても残念でなりません」と熱弁。

「今後フランスで青山監督作品が公開される上では、現在の観客が以前と同じように受け入れてくれるかどうかというハードルがあります。しかしレトロスペクティブ上映や、DVDでの再リリースなどで再評価される可能性は十分に考えられます。『EUREKA(ユリイカ)』はいまでも上映されると満員になります。私自身がフランスに青山監督作品を紹介するなら、『SHADY GROVE』がいいですね」と声を弾ませていた。

取材・文/久保田 和馬

※河瀬直美監督の「瀬」は旧字体が正式表記

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