ジュリー・テイモア監督「映画で観客の視野を広げたい!」黒澤明作品が持つパワーにも言及

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ジュリー・テイモア監督「映画で観客の視野を広げたい!」黒澤明作品が持つパワーにも言及

第35回東京国際映画祭の審査員&受賞者記者会見が2日、東京国際フォーラムにて開催。コンペティション国際審査委員を務めたジュリー・テイモア、ジョアン・ペドロ・ロドリゲス、マリークリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル、シム・ウンギョン、柳島克己が登壇し、映画祭の感想をコメント。アジアの未来 作品賞受賞『蝶の命は一日限り』のモハッマドレザ・ワタンデュースト監督、審査委員特別賞受賞『第三次世界大戦』に出演のマーシャ・ヘジャーズィ、観客賞受賞『窓辺にて』(11月4日公開)の今泉力哉監督、最優秀芸術貢献賞受賞『孔雀の嘆き』のサンジーワ・プシュパクマーラ監督、アンリ・クーペンヘイムが最優秀女優賞を獲得した『1976』の監督、脚本を務めたマヌエラ・マルテッリらは受賞のよろこびを語った。

【写真を見る】観客賞を受賞した『窓辺にて』(11月4日公開)の今泉力哉監督
【写真を見る】観客賞を受賞した『窓辺にて』(11月4日公開)の今泉力哉監督[c]2022 TIFF

審査委員長を務めたテイモアは、東京国際映画祭について「ハリウッドの商業的なエンタテインメント作品ではなく、映画祭でしか観ることのできない作品を集めたディレクターに感謝します!」とニッコリ。文化の違いできちんと理解できない部分はあるけれど、映画を通して世界で起きていることに耳を傾けることが大切であるとコメントし、「すばらしいストーリーの映画に出会えた、この経験こそがすばらしかったです」と満足の表情を浮かべていた。

ロドリゲスは仲間と呼べる審査員たちとの出会いに感謝。映画祭スタッフに視線を移し「僕たちのお世話をしてくださった方、本当にありがとう!東京の滞在がすばらしいものになりました」とお礼を伝えた。ナヴァセルはコロナ禍で映画を撮影することはとても大変なことと話し、「日本でもほかの国でも劇場で映画を観ることが難しくなっています。(配信などで)自宅で映画を観ることに慣れている状況だからこそ、より多くの方が映画館に足を運んでくださることを願っています!」とコメントした。

審査員のマリークリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル
審査員のマリークリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル[c]2022 TIFF

ウンギョンは映画祭開催期間中、「映画の力」についてずっと考えていたとし「映画はいつの時代であっても、どんなジャンルであっても愛と平和を叫んでいるものだと感じました」と語り、自身が鑑賞した15本すべての作品に敬意を表しつつ、「映画を観て感じたことを忘れることなく、広く芸術活動をし続ける人でありたいです」と力強く語った。

柳島はコンペ作品には笑顔が少ない映画や、なにか不満や怒り、不安を持っている印象を強く感じたと感想を伝え、「(コロナ禍で)我々が身近に感じていることを映画に反映していて、共感できる作品になっていたと思います」と分析していた。


受賞者記者会見の様子
受賞者記者会見の様子[c]2022 TIFF

テイモアの囲み取材では「東京国際映画祭」のこれからについて記者と意見を交わす場面も。テイモアは本映画祭で観た作品について「実は、どの作品の監督も知らなくて…」と苦笑い。だが、その独特のセレクトが東京国際映画祭の特長と話し、「有名な役者が出演する映画は映画館や配信でも観ることができます。日本で配給されない作品を映画祭に来て観ることに意味があると思います」と微笑む。「もっと東京国際映画祭が世界から注目されるためには?」という質問には「私は監督なのでアドバイスする立場じゃないですが…」としながらも「やっぱり映画スターですかね!」と答え、笑いを誘っていた。

東京国際映画祭の特長も語った
東京国際映画祭の特長も語った[c]2022 TIFF

記者から「とてもパワフルな方という印象です。テイモア監督のパワーの秘訣は?」と訊かれると「情熱を持っているから!」と即答。映画を通して見たこともない、考えたこともないところに観客を連れて行きたいという気持ちがあるそうで、「知っているところに連れて行ってもおもしろくないでしょ?芸術の力でみなさんの視野を広げたいという気持ちがあります」とコメント。

自身が敬愛する黒澤明監督の作品には、そのパワーがあると言及し、「ある文化(黒澤監督で言えば日本の文化)に特化している表現だけど、アメリカでは侍がカウボーイに置き換えられるように、いろいろな場所でリメイクされ、いろいろな形でたくさんの人に伝えられています」と説明。それこそが映画の魅力であり、人々が惹かれる芸術である理由だと思うと力強く語っていた。

取材・文/タナカシノブ

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