『ザ・メニュー』の監督&キャストたちが語る撮影秘話。「この映画は、特権意識を暴走させる人々への明確な考察」
「料理技術に一生を捧げるひたむきなシェフたちに畏敬の念を抱くようになりました」(ニコラス・ホルト)
シェフ・スローヴィクことレイフ・ファインズは記者会見に欠席だったが、アニャ・テイラー=ジョイが彼とのシーンを思い返し、こう語る。「彼のようなすばらしい俳優については、いくらでも語ることがあります。興味深かったのは、彼がスクリーンから感じてほしいと思うことが的確に表現されていて、これを観た観客は彼が出演しているシーンすべてにおいて、恐ろしいまでの存在感と恐怖に支配されるということです。でも2人が対峙するシーンでは、温かく親密な空気があったのも事実です。たとえセリフでは相当無礼なことを言っていても、彼とのシーンはいつも心地よく、とても寛大なダンスパートナーを得たような気分でした」。
SNSに料理の写真をポストすることが生きがいのような“フーディー”のタイラーを演じたニコラス・ホルト。大人数が登壇する記者会見で、発言タイミングを測りかねているホルトに、「ニックはこの映画のためにすごくいろいろ準備していたでしょう?それを話して」と、水を向けるアニャ・テイラー=ジョイ。まるで映画の中のカップルと正反対な雰囲気に、登壇者も爆笑していた。シェフ・スローヴィクを心の底から崇拝するテイラー役を演じたホルトは、「高級レストランで食事して、素敵な料理をたくさん目にするようにして…(笑)。監督が本作の参考にしたというNetflixの料理人のドキュメンタリー番組『シェフのテーブル』を観れば観るほど、調理技術に一生を捧げるひたむきなシェフたちに畏敬の念を抱くようになりました。ある日、映画のフードアドバイザーで、メニューをデザインしたドミニク・クレンが撮影現場に来ていたので、羨望の眼差しで見つめて役作りに活かしました」と、笑いを交えて話していた。
「私たちはみんな、同じ舞台で演技をする劇団のようでした」とフェリシティ役のエイミー・カレロが言うように、映画にはアンサンブルキャストの力強さが現れている。丹念に練られた脚本と、鬼才マーク・マイロッドが演出する、人間関係のパワーバランス。さらにこれらの強力なキャストが集まる『ザ・メニュー』は、映画祭などで一足早く鑑賞した観客や批評家からも絶賛されている。ぜひ、お腹を空かせて観に行ってほしい。
取材・文/平井伊都子