異色の”食通”映画『ザ・メニュー』監督にインタビュー。「僕のモットーは、どんなものに関しても“極上”を手に入れることなんですよ」 - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
異色の”食通”映画『ザ・メニュー』監督にインタビュー。「僕のモットーは、どんなものに関しても“極上”を手に入れることなんですよ」

インタビュー

異色の”食通”映画『ザ・メニュー』監督にインタビュー。「僕のモットーは、どんなものに関しても“極上”を手に入れることなんですよ」

「レイフ・ファインズは第一印象から完璧でした」

――その観客掌握術には、完璧なキャスティングも含まれていますよね。このすばらしいアンサンブルキャストについて聞かせてください。

マイロッド「このすばらしいチームを構成するのは、夢のようなプロセスでした。まず、シェフ・スローヴィク役のレイフ・ファインズは、僕らの第一候補でした。パンデミック中で別々の国にいたので最初の出会いはZoomでしたが、第一印象から完璧でした。僕らが思い描いていたスローヴィクは、映画の中にだけ存在する怪物ではありません。スローヴィクは、自分の進むべき道を見失い苦悩し、自分が選んだ道とエゴによって自己嫌悪に陥り、世界全体を吹き飛ばす以外に選択肢がないという極論に行き着いた芸術家です。『シンドラーのリスト』から『グランド・ブダペスト・ホテル』まで、彼の幅広い仕事を見ればわかるように、レイフ・ファインズの俳優としての魅力は、暗黒面や痛々しさをすべて表現しながらも、どこかおもしろいということです。そのような幅を持った俳優はなかなかいません。

公開中の『ザ・メニュー』マーク・マイロッド監督にインタビュー!
公開中の『ザ・メニュー』マーク・マイロッド監督にインタビュー![c] 2022 20th Century Studios. All rights reserved.

そして、そのレイフと互角に渡り合えるような若い俳優を探していました。僕は、世界中の人々と同じように、アニャ・テイラー=ジョイの大ファンでした。彼女に脚本を送り電話で話すと、すぐに彼女と我々のマーゴ役に関する解釈に相違がないことがわかりました。恐れとシニカルな視点の表面下に、理想主義が潜んでいるような役です。そして、アニャの役は、食通ではない我々一般市民の視点を代表する窓となります。水揚げされたばかりの魚のような招かれざる客が、この奇妙な世界がなんであるかを知る存在です。

美食には興味を示さず、スローヴィクと対立する主人公・マーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)
美食には興味を示さず、スローヴィクと対立する主人公・マーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)[c] 2022 20th Century Studios. All rights reserved.

そしてもちろん、マーゴとエルサの対立と葛藤、そして繋がりが物語の核になります。ホン・チャウが給仕長役を見事に演じてくれたおかげで、敵対する強い存在感が出せました。そうやってテーブルを一つ一つ完成させるように、アンサンブルキャストを揃えました。そして、ロバート・アルトマン監督の撮影現場のように、すべてのキャストにマイクを装着し、全員が常にセットにいる環境を作りました。時系列に沿って撮影を行い、俳優が思わずもらした言葉などを拾う、即興的な要素を取り入れました。そうすることで、テイクが常に新鮮で、二度と同じテイクを重ねる必要もありませんでした。毎日、一日中撮影現場に一緒にいて映画全体のトーンを築き、緊張感を高めていきました。文字通り全員が一致団結し映画を作り上げたと言えるでしょう」

スローヴィクの右腕として忠実に任務を遂行する給仕長のエルサ(ホン・チャウ)
スローヴィクの右腕として忠実に任務を遂行する給仕長のエルサ(ホン・チャウ)[c] 2022 20th Century Studios. All rights reserved.

「『ゲーム・オブ・スローンズ』を撮影していたスペイン北部の街で行ったレストランが、世界で一番気に入っています」

――料理部分の撮影には、『二郎は鮨の夢を見る』(11)のデイヴィッド・ゲルプ監督が参加していて、彼が手掛けた「シェフのテーブル」(Netflix)がニコラス・ホルト演じるタイラーのジョークにもなっていました。15分で3万円のコースを提供する寿司職人も、ある意味スローウィグぽいコントロールフリークと言えるかもしれません。

マイロッド「はははは、確かに(笑)。実は、僕自身はまったく食通ではなく、美食の世界を探求したわけでもありません。でも僕のモットーは、どんなものに関しても“極上”を手に入れることなんですよ。ホラー表現で緊張感を高めることのできる絶対的な達人であるピーター・デミングを撮影監督として起用したのもそのためです。


この映画の料理コンサルタントのドミニク・クレンに脚本を送りやりとりを続けるなかで、僕が求めている料理の撮影方法は、デヴィッド・ゲルプが作ったドキュメンタリー作品や、特に『シェフのテーブル』で彼が料理の撮影方法に革命を起こしたところから影響を受けていることがはっきりとわかりました。常に最高を求める僕は当然の如くデイヴィッドに電話し、『手伝ってくれないか』と言いました。デイヴィッドは喜んで参加してくれて、すばらしい料理シーンを撮ってくれました。将来、また彼とコラボレートする機会があればいいなと思います」

「ホーソン」に来ることを楽しみにしていた、料理オタクのタイラー(ニコラス・ホルト)
「ホーソン」に来ることを楽しみにしていた、料理オタクのタイラー(ニコラス・ホルト)[c] 2022 20th Century Studios. All rights reserved.

――なるほど。食通ではないと仰っていますが、いままで行ったなかで最も印象に残るレストランについて教えていただけますか?

マイロッド「『ゲーム・オブ・スローンズ』を撮影していたスペイン北部の街で行ったレストランが、世界で一番気に入っています。ピカソが住んでいたと言われる小さな村の港にあるレストランでした。テーブルとプラスチックの椅子が置いてあって、漁師たちがその日に獲ったものを調理してテーブルに運んでくれる。そこに『ゲーム・オブ・スローンズ』のキャストと一緒に行きました。プラスチックのグラスでワインを飲み、海から直送されたムール貝を食べました。いままで食べたなかで一番おいしい食事でした。共にテーブルを囲んだ仲間も最高でした。しかし、その美しい経験は、絶対的なシンプルさにあったのでしょう。だから、僕もマーゴのように、高貴な料理の世界を訪れても、よくわからない外国語のように聞こえてしまう。使えない言語の世界に行っても、なす術もありませんから」

取材・文/平井伊都子

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