アカデミー賞×ピューリッツァー賞受賞作は名作揃い!『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』にも期待
名もなき女性たちを懸命に取材し、#MeToo運動に火をつけて社会を動かしたことで、ジャーナリズムの権威であるピュリッツァー賞を受賞した女性ジャーナリストたちの物語を描く『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が2023年1月13日(金)から全国公開される。そこで、本作と同じくピューリッツァー賞受賞の報道を基にした映画で、なおかつ栄誉あるアカデミー賞も受賞した名作をご紹介。
SNSがすっかり生活に浸透した2010年代、時代を象徴する一大ムーブメントとなった#MeToo運動。セクハラや性暴力体験を告白できずにいた多くの人々が、SNS上を中心にハッシュタグ#MeToo(=私もです)とつけて投稿し、国境や人種、年代、性差をも超えて強い連帯感を生み出した。やがて世界中にはびこる劣悪な性暴力の実態が浮き彫りとなり、日本でも爆発的な拡散を見せたのも記憶に新しいところだ。
この運動の発端となったのが、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ、『恋におちたシェイクスピア』(98)、『英国王のスピーチ』(10)など数々の名作を手掛けてきた、ハリウッドの伝説的映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによるセクハラ、性暴力疑惑を報じたニューヨーク・タイムズ紙の告発記事だ。この報道を受け、多方面から支持や追随の動きが広がったので、その意義深さから、ピューリッツァー賞のなかでも最高峰とされるジャーナリズム部門の「公益賞」を受賞した。
この調査報道に奔走した2人の女性ジャーナリストを主人公にした映画が、『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』だ。主人公である2人の勇気ある女性記者に扮したのは、アカデミー賞に2度ノミネートされた『17歳の肖像』(09)や『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20)のキャリー・マリガンと、テレビシリーズ「プロット・アゲンスト・アメリカ」などのゾーイ・カザン。アカデミー賞の常連であるプランBが製作し、早くも本年度賞レースの目玉となっている。
そんな、時代の潮流を汲まんとする意思を見せるアカデミー賞にもノミネート入りの期待が高まる本作同様に、過去にピューリッツァー賞受賞の報道を基にしたアカデミー賞受賞作はどれも意義深いものばかり。
1984年公開の『キリング・フィールド』は、本作と同じニューヨーク・タイムズ紙の記者によるカンボジア内戦の取材体験が基となった1本。第57回アカデミー賞では3部門を受賞したが、助演男優賞に輝いたハイン・S・ニョールは、実際にその地で強制労働に従事した演技経験ゼロのカンボジア人医師という点でも、非常にセンセーショナルな話題をさらった。
2008年公開の『ダウト あるカトリック学校で』は、ピューリッツァー賞とトニー賞をW受賞した戯曲を映画化した作品で、実力派俳優陣の豪華共演も話題を呼び、主演のメリル・ストリープをはじめ4部門で第81回アカデミー賞にノミネート。白人の神父と黒人少年の性的行為に関わる疑念をめぐる物語で、宗教観、性差への偏見もはらんだ実に現代的なテーマが描かれている。
そして古くは、約65年前となる1958年公開作『熱いトタン屋根の猫』も、三島由紀夫と親交のあったというテネシー・ウィリアムズによるピューリッツァー賞受賞の名戯曲を原作にした1本で、第31回アカデミー賞には作品賞を含めた6部門でノミネート。エリザベス・テイラーやポール・ニューマンといった“ハリウッド黄金時代”を彩ったスターたちの共演で、遺産相続や同性愛といった社会的テーマが当時の時代性を反映した形で描かれている。
時代の光と影を捉え、その時を生きる人々に大切な何かを伝えてくれる“ピューリッツァー賞”。この賞にふさわしく、ジャーナリストたちの信念が宿り世界を変えたワインスタイン事件告発記事が世に発表されるまでの、関係者の熱意と衝撃の物語を、ぜひ劇場で目撃してみてほしい。
文/山崎伸子