アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第16回 鏑木さん

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第16回 鏑木さん

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第16回は『アイドル戦隊』の新メンバー鏑木さんがほろよいのまま怪人に立ち向かう!

ピンキー☆キャッチ 第16回

イラスト/Koto Nakajo

突然登場した謎の中年に、理乃と鈴香は目を丸くした。怪人との攻防を遠巻きに見ていた野次馬達もザワザワと騒ぎ立て始めた。無理もあるまい、コスチュームを身に纏った戦隊ヒーローの中に、何の変哲もないおじさんが飛び込んできたのだから。そうした周囲の反応にも構わず、鏑木は腰を低く落とし、ポージングを決めている。

「おのれ、俺達の仲間を・・ 許さないぞ!!」

七海と鏑木は初対面だが、ストレッチャーで救急車内に運ばれる姿を横目で見ながら、本当に悔しそうに拳をギリギリ握って見せた。

「ちょっと都築さん!誰やの!?この人~」

理乃の困惑は当然だ。もちろん事前のデータになかったのであろう、怪人すらも少し戸惑い、こちらと鏑木をキョロキョロと見渡している。

「その人インターンなんだ!あの・・・研修のおじさん!!一応プリズムも着けてるからぁ!!」
「何よ研修て・・・。戦ったことあらへんのやろ!?」
「ああ・・・でも、戦隊モノは大好きな人だから!!」
「大好きって何?どういう事!?」
「ダメだ理乃、都築さん酔ってるよ」

鈴香の指摘通り、酔いと混乱で適切な説明ができない。しかし今は研修おじさんの戦力でも頼らなければならない危機なのだ。当の鏑木は無意味にポージングを変え、口を開いた。

「無駄話はそこまでだぁ!!!」
「!?」
「!?」
「俺が正面を切る!!二人は両サイドから回り込むんだ。相手のハンマーは2本、こちらは3人!攻撃の隙は何処かに出る!!!」


鏑木の剣幕に二人は半信半疑ながらも両翼にフォーメーションを組み始めた。意外だったのはこの現場を取り巻く雰囲気が一瞬にして変わった事だ。遠巻きに見ていた数多くの野次馬たちがにわかに熱を帯び始め、各所で声援が飛び始めた。

「いいか!?ハンマーは必ず振りかぶる瞬間がある!その一瞬に付け入る隙があらわれる。俺が囮になる・・・攻撃のタイミングが見えたら・・・・・・行け!!!」

少年誌を読んでいた者であれば100回は見たことのある攻防のセオリーだ。しかしセオリーになるくらいだ、なるほど理にはかなっている。理乃と鈴香も鏑木を『なんだか知らないけれど出来るおじさん』と認識したらしく、指示通りに両端から距離を詰めた。先程まで騒ついていた野次馬連中もゴクリと唾を飲み、声を発せずに状況を見守っている。
珍客の来訪に戸惑っていた怪人は好戦的な勢いを取り戻し、鏑木を警戒しつつも攻撃の機会をうかがっていた。

周囲の緊張感が頂点に達したその時、痺れを切らした怪人が喚き声と共に大きくハンマーを振り上げた。その刹那、鏑木は前転で懐に入り込み、怪人のハンマーを両腕で更に押し上げた。咄嗟のアタックに怪人はたまらずよろめく。両端から距離を詰めていた理乃と鈴香は怪人の腕に絡みつき、動きを制した。

「おっさん今や!!頼むわ!!!」

理乃が特殊金属で精製したトンファー型の武器を鏑木に投げた。不必要に大きな身振りでそれを受け取ると、鏑木は天高くトンファーを掲げた。

「宿れ!!怒りの雷よ!!」

もちろん何も宿りはしないが、妙な説得力と迫力はあった。都築の後ろの青年が『なんかすげえ』とつぶやいた。

「サンダー!・・っ・・・・ブルーギル!!!!」

とにかく横文字でキメたかったのだろう。咄嗟に浮かんでしまったに違いない外来魚の名を叫びながら、振りかぶったトンファーの先を怪人の眉間に突き刺した。獣のような呻き声と共に怪人が後ろに倒れ込んだ。鏑木は二人に『行くぞ!!』と指示を出すと、3人はフォーメーションを組んだ。3つのリストバンドを重ねることによって放たれるピンキー☆クラッシュでフィニッシュだ。そのまま3人の腕を重ねれば勝手にエネルギー波が放出されるのだが、鏑木は腕で大きく円を描き、必殺技に演出を加えている。察した二人もそれに倣って無意味に腕を回している。

「・・・・召されよ・・ピンキーーーー!!」
「クラ・・クラッシュ!!!!」

鏑木の急なアドリブである『召されよ』で少々タイミングはズレたが、まばゆい閃光を受け、怪人は灰となった。その後も、そのままササッと戻ってくればいいものを、3人はポージングを崩さぬまま風に流される灰塵を見つめ続けている。ライフ東中野店の駐車場のライトで逆光となり、戦隊モノらしいと言えばらしくは見えた。野次馬達が一斉に歓声を上げた。まさにヒーローに向けた物凄い盛り上がりようであった。警戒線を張っていた警察官までもが拳を振り上げて3人を、いや、鏑木を讃えている。実戦はもちろん、特段目立つスポーツ経験もない中年の、見事な立ち回りであった。幼い頃から大好きな戦隊モノになりきり、何千・何万回も戦いのシミュレーションをしていたのであろう。そこにほのかな酔いも手伝い、思い切りの良さに繋がったに違いない。3人は踵を返すと、群衆の喝采に迎えられた。鏑木は右肩を押さえ、ゼエゼエと息を切らしている。別に肩に攻撃は受けていないし、そこまで息の切れる運動もしていない。単純に『ヒーロー感』のプロなのだ。それだけとはいえ、見事に勝利を収めたのだ。所々引っかかりはあれど、都築に言えることは何もなかった。

(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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