目指したのは“本物”。『ザ・メニュー』は衣装やメイクのこだわりもすごかった！

「ずっと同じ衣装を着ているので、それぞれの場面と完全にマッチしていなければならなかった」(ニコラス・ホルト)

その一方で、料理を堪能するゲストの衣装は、それぞれの人物像と、ストーリーのなかでの立ち位置をなんらかの形で表現している。マーゴは本作のキャラクターで唯一、鮮やかな色味をまとっている。美しい紫色のドレスや彼女の赤毛は、モダンな無彩色のセットで一際目立つ。そして彼女の履くブーツは、グラマラスでセクシーなドレスとは対照的に、彼女の強さを表現する。ウェストコットは「マーゴの外見は彼女が人に見てもらいたいこと、彼女が売りにしている魅力を表しています」と解説。

シリコンバレーの若者たちは高価なスーツを着ていて、素足にローファー。タイラーのスーツはディナーにしてはドレッシーすぎるが、この夜に対する彼の大いなる期待感を表している。ジャネット・マクティアが演じた著名な料理評論家のリリアン・ブルームは、派手なピンク色の髪と衣装で、ほかのゲストよりも目立つ。

ホルトは衣装について「彼らの衣装はどれも美しくできていますが、それぞれの人物像を完璧に表現していて、見ていると1人1人の個性がよくわかってきます」と言う。「私たちは劇中、ずっと同じ衣装を着ているので、それぞれの場面と完全にマッチしていなければならなかったし、一瞬で表現しなければなりません。彼女が、私にこのスーツのラフ画とアイデアと共に、タイラーがどういう人物であるかを説明してくれた時、私はすぐに理解できました」。

リード・バーニー演じるリチャードと、ジュディス・ライト演じるアンは裕福な熟年カップルで、ホーソンには何度も食べに来ている。アンの衣装についてウェストコットは、背景と混ざり合うような、まるで彼女という人物がいるのがどうかわからないようなドレスにしたかったと言う。ライトは「膨大な数の衣装を試したあとで、やっとこのキャラクターにぴったりの物を見つけました。私が履く靴はドレスとまったく同じ色で、つけている真珠のネックレスに至るまで、完璧な淑女です」とご満悦だ。

「物語が進むにつれて、登場人物たちは疲れ果てたような外見になっていきますが、それこそがねらいでした」(デボラ・ラミア・デナバー)

ヘアスタイリストのリーダーであるアドリューシア・リーと、メイクアップのリーダー、デボラ・ラミア・デナバーも、登場人物たちの外見がストーリーで表された人物像にマッチするようにと協力し合った。しかしストーリーはわずか数時間の出来事で、しかもクリエイティブなものであるため、それは容易なことではなかったようだ。彼らの外見は、ホーソン島へボートに乗っていくところから始まり、夜が進むにつれてゆっくりと崩れていく。

デナバーは「それぞれのキャラクターには個性があるので、俳優たちにはそれぞれはっきりとした外見を与えたかったのです。だから出演者全員に、作りあげた完璧なルックスでレストランに到着してほしかったのですが、ボートに乗るし、湿度もありました」と苦労も口にする。リーも「非常に魅力的なのに、意外性のある外見」と付け加える。「ちょっとエッジが利いた感じです。物語が進むにつれて、登場人物たちは疲れ果てたような外見になっていきますが、それこそがねらいでした」とその意図を語る。

衣装、メイク、スタイリングなどのルックスにおいても、細部に職人技が光る『ザ・メニュー』。ブルーレイ＋DVDセットは、スタッフ陣が料理、演技、衣装を語り尽くす「“ホーソン”の厨房へようこそ」や「未公開シーン」など、充実のボーナスコンテンツが収録されているので、本編と共に堪能してはいかがだろうか。

文/山崎伸子