アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第19回 CM

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第19回 CM

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第19回は怪人との戦いに勝利したのもつかの間、新たな問題が浮上していた。。

ピンキー☆キャッチ 第19回 CM

イラスト/Koto Nakajo

『しまった!CMだ!!』

眠気は一瞬で吹き飛んだ。青白い顔でガバッと体を起こし、ネットニュースを開いた。
『ピンキー七海、大怪我で休養へ』マスコミへの通達から1時間も経っていないのにも関わらず、既にトップページのニュースになっている。そこには都築が送った文面の通り、歩道橋の階段でペットボトルを踏みつけ、転倒したと記載されていた。しかしこれがマズかった。

先日、ピンキーへのCMの依頼が入った。超大手飲料メーカーからのもので、テレビ・ネット・各種紙面媒体と多岐に渡る依頼である。都築はもちろん喜んで引き受けた。これまで細々とした広告仕事はあったが、これほどまでに規模の大きいCMは初めてだった。その大手飲料メーカーが新商品の紅茶を出す。これまでのメインターゲットであった大人の層から若者にも支持されたいとの狙いがあった。そこで今回の商品は爽やかなフレーバーに加え、ペットボトルの形状にも一工夫が凝らされていた。螺旋を描くような模様で彩られ、デザインもさる事ながら、持ちやすさにもこだわりがあるとの説明を受けた。

撮影はひと月ほど先の予定であり、七海の怪我もその頃にはある程度治っているだろう。都築が青ざめたのは、マスコミに向けた文章で『ペットボトルを踏んでの大怪我』といった箇所である。CMギャラは高額だ。その金額は収録の稼働への報酬ではなく、タレントのイメージそのものを買い上げるからだ。もちろん事務所・タレント共に企業が買い上げたその『イメージ』を守らなくてはならない。その補償金のような形であるがゆえ、高額なのである。

メーカ側は『大丈夫ですよ』と言ってくれるかもしれない。しかしそれはあくまで温情であり、こちらサイドが判断していいものではないのだ。そうした意味合いから、売り出したい商品に対して『ペットボトルを踏んで大怪我』という事故は、大きな大きなイメージの損失に繋がる。ましてや作り話であった分、よく考えていればそのワードは避けられたはずなのだ。

「マズった・・・」

もう遅いかもしれない。いや、現にこうして広く世間に拡散されてしまった後だ。訂正は1秒でも早い方がいいが、下手なものの言い方になってしまっては却って訝しがられてしまうだろう。あくまでも無理なく、自然な形で訂正しなくてはならない。ふと都築は朝のウォーキングウェアに着替えようとしている自分に気が付き、ハーフパンツを投げ捨てた。

「健やかに歩いている場合じゃないだろう、現実逃避をするな」

自らに強く言い聞かせ、冷水で顔を洗った。ベッドに腰掛け、まずは考えを思い巡らせた。

「階段で転んだ事自体は問題がないはずだ。直すべきは“ペットボトルを踏んで”の箇所だ。しかし今更他の物に変更して、その直後にCM発表となっては怪しむ者も出てくるかもしれない。こちらの打ち間違えという形の訂正で、なんとかなるかもしれない。 ・・・考えるんだ、歩道橋の階段に落ちていても不自然じゃなく、踏むと危険で、なおかつ『パ行』の物を・・・」

携帯を開き、「パピプペポ」と打ち込んで予測変換から使えそうなものを調べてみた。

パン。パルコ。パチンコ。パスポート。パーソナルカラー診断。パナソニック。
ピアノ。ピアス。ピュア。ピザーラ。ピザハット。ピエールエルメ。
プロ野球。プレミアリーグ。プレミアムバンダイ。プリキュア。
ペイペイ。ペイペイカード。ペイペイ銀行。ペッパーミル。ペルソナ。ペペロンチーノ。
ポケモンsv。ポケモン。ポケモンgo。ポケモンセンター。ポケモンカード。ポケモンセンター渋谷。ポケモン図鑑。ポールスミス。

こうして見てみると、歩道橋に落ちていて自然な物などあまり見当たらない。パンは惜しいが、バナナの皮のように踏んで転ぶイメージもあまりない。パチンコ玉も踏めば危険だが、歩道橋の階段にあるのはおかしい。それにしても『ポ』におけるポケモン関連の強さには驚いた。そこへ食い込んでくるポールスミスの安定感もさすがだ。いや、そんな事を考えている暇は無いのだ。どうしようもなくなった都築は、目についたペイペイのCMソングを口ずさみながら頭を揺らしているとハッとした。ペ・・・ペット・・・・ペット用品だ。犬が咥える骨の形をしたゴム製のおもちゃが、道路の端に転がっているのを見た事がある。

「これだ!『ペット用品のおもちゃ』と打ち込むはずが『ペットボトル』の予測変換で打ち間違えてしまったと訂正しよう!犬が歩道橋に置き忘れてしまっても不自然ではないし、踏んだら危険そうな形状だ!急がねば!!」

都築は喜び勇んで各所に訂正のメールを送った。七海にもその旨の連絡を済ませた。2時間も経つと、各ネットニュースもあらかた修正版を載せてくれていた。コメントをチェックすると『どんな間違いだよw』『予測変換間違えワカル』『持ち主のわんちゃんに戻るといいね』など、軽くイジられはしているものの、変に疑う反応は無かった。

「やったぞ・・・・俺はやったんだ・・・」

不眠の疲れも一気に吹き飛び、身支度を整えると眩しい陽光の元に飛び出した。今日も新しい1日が始まろうとしている。気兼ね・気疲れは絶えないが、討伐で地球の平和を守り、芸能でファンの笑顔を守っている。命をかけて戦うメンバー達の横で、自分にできる事を全うしていこう。新鮮な朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、澄んだ空に向けて身体を伸ばした。「ヨシッ」と声に出し歩き出すと、携帯がメールの着信を告げた。世話になった事のある広告代理店の人間からだ。

【お疲れ様です、ご無沙汰しております。

CMの依頼でお話を伺おうかと。以前メンバーの皆さんがご出演されていた『どうぶつto
いっしょ!』を見ていたクライアントのロッキーバウ社様からペットフードならびにグッズ関連のCMキャラクターに「是非ピンキーの皆様で」との依頼が入りました。
現状の競合他社やその他詳細等、一度お打ち合わせをさせて頂きたいのですが、ご都合はいかが】

ここまで読むと都築は再び空を見上げた。

「・・・・・・パ・・・ピ・・プペポ・・・・。歩道橋に散乱していたペペロンチーノを踏んで・・・・・。ポールスミスのカットソーに足を取られ・・・・。ポケモンのフィギュアと打つべきところを私のミスで・・・・・」

乾いたつぶやきは爽やかに吹く風に煽られ、高く遠く上空に吸い込まれ続けた。

(つづく)

文/平子祐希


■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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