オスカー候補のポール・メスカルが語る、“娘”と過ごした親密な時間
昨年のカンヌ国際映画祭で上映されるや大きな注目を集め、今年の同映画祭のオフィシャルポスターにも採用された『aftersun/アフターサン』が公開中。本作で11歳の娘ソフィと共にリゾート地で夏を過ごす父カラム役を演じ、第95回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたポール・メスカルは、「一気に脚本を読み、『なにがなんでもこの役を手に入れよう』と思いました」と、この物語との出会いを振り返る。
本作で長編監督デビューを飾った新鋭シャーロット・ウェルズ監督の実体験をベースに、11歳のソフィが父親とふたりきりで過ごした夏休みを、その20年後に父親と同じ年齢になった彼女の視点から綴った本作。普段は別々に暮らす父カラムとトルコのリゾート地を訪れたソフィ。旅行のために入手した最新の家庭用ビデオカメラを互いに向け合いながら、かけがえのない親密な時間を過ごす父と娘。しかし、些細なことが原因で2人は口喧嘩をしてしまう。
「この映画は、ソフィの父親に関する記憶の結晶」
アイルランドの国立演劇学校リール・アカデミーを卒業し、『イニシェリン島の精霊』(22)などで知られる鬼才マーティン・マクドナーが手掛けた舞台「ウィー・トーマス」で主演を務めたり、マギー・ギレンホールがメガホンをとった『ロスト・ドーター』(21)に出演するなど目覚ましい活躍を続けるメスカル。巨匠リドリー・スコット監督が手掛ける『グラディエーター』(00)の続編の主演にも抜擢されている彼は、瑞々しい感性が光るデビュー作を作りあげたウェルズ監督に温かな賛辞を送る。
「シャーロットと出会い、彼女の聡明さやどのように物語を描くかというしっかりとしたビジョンに驚かされました。彼女は思慮深く、作品を正確に理解している。この映画の中心にはあたたかなものがあると思うけれど、片隅には少し複雑な要素もある。彼女をとても信頼しているし、演技の観点から考えると本当に説得力がありました」。そして自身の演じたカラムという役柄について、「すばらしい父親だと思うけれど、明らかに不安のタネを抱えている。心から娘を愛しているけれど、同じくらい自分を愛することができないのです」と説明。
そんな謎の多いカラムを演じるうえで、彼の抱える生きづらさや繊細さを、メスカルはどのようにアプローチしたのだろうか。「この映画はソフィの父親に関する記憶の結晶のようなもの。もし僕がどうしてもわからないと質問すれば、きっとシャーロットは答えてくれたでしょう。でもほぼ全編を通してソフィの視点で描かれる以上、彼女が父親のことを完全に理解していないことが肝心だった。映画の整合性を取るために、あえて明らかにしていない部分もあるのです」と、あくまでもソフィの視点から物語が運ぶことを重視したことを明かした。