オスカー候補のポール・メスカルが語る、“娘”と過ごした親密な時間
「本作のメッセージは、観る人それぞれが決めていい」
映画の中核を担うことになるソフィ役には、800名以上が参加した約半年にわたるオーディションを経て、これが映画デビュー作となったフランキー・コリオが抜擢された。コリオは「ソフィは私とよく似ている。彼女はとても活発な子で、私も同じ。実在の人物だったら、絶対に友だちになれると思います」と、初めて演じた役柄に共感した様子で語る。
一方でメスカルは、ウェルズ監督から丁寧な演技指導を受けて役に臨んでいたコリオについて「フランキーが心から演技を楽しんでいる姿を見ることができて、すごくうれしかった」と、まるで父親のような眼差しを向ける。「彼女の初出演作品で共演できたことを心から光栄に思う。大人の俳優となら、徹底的に話し合うことができる。けれどフランキーとならば、彼女が思った通りに起きたことをそのまま演技に活かしたいと思ったんです」。
2人は撮影地でもあるトルコにクランクインの2週間前から滞在し、実際に父と娘のような関係を構築していったという。「フランキーは午前中に家庭教師のところへ行き、その後は僕と一緒にビリヤードをしたりプールに飛び込んだりしていました。彼女の両親もフレンドリーですばらしい人たちで、すっかり仲良くなって試しにシーンを演じてみたりしました」とメスカルは楽しげな“リハーサル”期間を振り返る。
コリオも「海に行ったり泳ぎに行ったりもしたし、円形劇場にも行きました。みんなすごく優しくていい人たちばかりで、映画に出演するほかの子どもたちとも楽しい時間を過ごしました」と声を弾ませる。「私のパパとポールがビリヤードで対決するのを、アイスクリームを食べながら座ってみていたことと、私の誕生日に大きなチョコレートケーキでみんなに祝ってもらったことがいい思い出です」と語った。
時間をかけて親密さを作りだしてきたメスカルとコリオの父娘さながらの関係は、劇中にもそのままのかたちで反映されている。2人の自然体の演技が、この映画の魅力をより高めているといえるだろう。最後にメスカルは本作について「この映画のメッセージは、愛する人との大切な思い出を忘れずに大事にすること、でしょうか。でもそれは観る人それぞれが決めていいことだし、なにを感じ取るべきかはこちらからは示しません。笑顔になれるし心を揺さぶられる。色々なものが詰まった作品なのです」。
構成・文/久保田 和馬