タイ・ウエスト監督が語る、最高齢シリアルキラーの“少女時代”「パールはなぜか応援したくなる」

インタビュー

タイ・ウエスト監督が語る、最高齢シリアルキラーの“少女時代”「パールはなぜか応援したくなる」

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(公開中)が第95回アカデミー賞で7部⾨を受賞した話題の映画スタジオA24が贈る、ホラー映画最新作『Pearl パール』が公開中だ。ホラー映画『X エックス』(22)の前⽇譚で、現在製作中の完結編『MaXXXine』とあわせA24初の3部作としても注⽬される本作。『X エックス』に引き続き、タイ・ウエストが監督と脚本を手掛ける。名匠マーティン・スコセッシ監督をして「我々をもてあそぶ傑作」と言わしめた本作の魅力あふれるキャスト陣、ロケ地や音楽の制作秘話について、ウェスト監督が明らかにした。

『X エックス』で世界を震撼させた最高齢のシリアルキラー、パールの少女時代を描く本作。ダンサーを志ざし、スターの華やかな世界に憧れていた夢⾒る少⼥パールは、いかにして無慈悲かつ凶暴な殺人鬼へと変貌していったのか?『X エックス』で主⼈公のマキシーンとパールを演じたミア・ゴスが再び主演を務め、本作でも若かりしころのパールを演じた。なお、本作では脚本とエグゼクティブ・プロデューサーとしてもクレジットされている。

「『君が登場しないシーンは一つもない。あと1か月は眠れない覚悟をしておきなさい』とミアに言いました」

「『X エックス』を観た人なら、パールの人生が思いどおりにいかなくて、その後、彼女がひどいことを繰り返すことを知っています」とウエスト監督は語る。「でも、パールがとんでもない問題を抱えていたとしても、『X エックス』のあとで『Pearl パール』を観ると、パールになんとか上手くいってほしいと思うはず。それは、ミアがこの役を見事に演じてくれた証です。パールは好きになるべきじゃないキャラクターだと分かっていながら、なぜか応援したくなるとしたら、それは映画として大成功です」。

『X エックス』撮影中のタイ・ウエスト監督
『X エックス』撮影中のタイ・ウエスト監督[c]Everett Collection/AFLO

異なる時代を舞台にした2本の映画で、同じキャラクターを連続して撮影するというアイデアに、ゴスはワクワクしていたそうだ。ウエスト監督は「パールとマキシーンを演じたあとに、主役としてまったく異なるバージョンのパールを演じることは非常に困難な仕事です。2作目が始まったら『君が登場しないシーンは一つもない。あと1か月は眠れない覚悟をしておきなさい』とミアに言いました」と話す。

厳格な⺟親に抑圧されてきたパールの狂気が暴発する
厳格な⺟親に抑圧されてきたパールの狂気が暴発する[c]2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

また、テキサスの小さな町の映写技師役を務めたデヴィッド・コレンスウェットは、キャストのなかで唯一、本作のために、外国から呼び寄せられたメンバーだ。パールに初期のポルノ映画を見せて、彼女の心をとらえるキャラクターは、チャーミングさと媚びを売るような部分をあわせ持ち、スターになりたくてたまらない多感な若い女性にとっては麻薬のように強い依存性のある人物となる。

ウエスト監督は、コレンスウェットが、すぐに『Pearl パール』の物語とキャラクターをつかんだことに感心した。「デヴィッドは『雨に唄えば』や年代物のハリウッドのミュージカル映画が大好きだから、この映画がどういう作品かを瞬時に理解しました。世界観に入り込まないと、この映画のトーンを表現することはできないから、それは大事なことでした。誰もが、どんな作品に出ているのかを知る必要がありましたし、演技が時代やジャンルに合ってないと、観ている人は映画から簡単に離れていってしまうから」。

「音楽はこの映画の主役の一つで、とても重要なもの」

美しい映像美に心を奪われる!
美しい映像美に心を奪われる![c]2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

2021年3月に『X エックス』を撮り終えた1か月後、ニュージーランドで『Pearl パール』の撮影を開始したので、1作目の農家とその周辺のセットは再利用したと、ウエスト監督は明かす。「『Pearl パール』を実現できた大きな理由の一つは、納屋と宿泊所を既に作っていて、家のロケーションを確保していたことです。撮影終了後にセットを解体せず、ペンキと壁紙を使って、別の映画で再利用しました。映画の撮影現場では廃棄物が大量に出ることが多いから、作ったものをすべて再利用できてすごくいい気分でした。沼はハリウッドのバックロット(=スタジオ近くの野外撮影所)に見立てたし、古いものはすべて新しく生まれ変わりました」。

そして本作では、フルオーケストラを使った劇伴にも注目したい。作曲家タイラー・ベイツがストリングスを中心にした恐ろしい曲を作り上げ、『Pearl パール』は穏やかで静かな映画ではないと、オープニングクレジットから観客に知らしめた。「この映画ではロマンチックでメロドラマ的な昔ながらの音楽にしようとタイラーに話したら、大喜びしていました」とウェスト監督は語る。


【写真を見る】前日譚映画『X エックス』から再利用されたという『Pearl パール』のロケ地
【写真を見る】前日譚映画『X エックス』から再利用されたという『Pearl パール』のロケ地[c]2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

ベイツはたった6週間で68人のオーケストラを編成し、何度もコラボしているティム・ウィリアムズを迎えた。彼はミュージシャンのオーディションのサポートや、オーケストラの編成、ナッシュビルでの4日間にわたるリハーサルに参加し、レコーディングに臨んだ。ウエスト監督は「映画でフルオーケストラを使ったのは初めてでしたが、最高でした。タイラーとティムは本当に予想以上の成果を挙げてくれました。音楽はこの映画の主役の一つで、とても重要なものでした」とご満悦だ。

監督の言葉からは、制作を楽しでいた様子が伺え、それと同時に本作にかけていた熱量の高さがひしひしと伝わってくる。そして、その期待に対してゴスをはじめとしたキャストやスタッフ陣が十二分に応えたということも明白だろう。スタッフ、キャストが自信をもって送りだす本作の仕上がりを、ぜひ映画館で確かめていただきたい。

文/山崎伸子

関連作品

  • Pearl パール

    3.8
    1084
    両親から異常な愛を受けた少女が、無邪気かつ残酷なシリアルキラーとなるホラー
    U-NEXT
  • X エックス

    3.3
    704
    史上最高齢の殺人夫婦が棲む家に迷い込んだ3組のカップルを描くA24のホラー作品
    Prime Video Hulu