「山下さんの無言の演技があまりにもよくて、台詞を減らしたほど」『SEE HEAR LOVE』山下智久×イ・ジェハン監督が対談
「愛とは、すべてを包み込める寛容さを持つこと」(山下)
――監督によって引き出された部分や、本作で得たものは?
山下「抽象的な表現になっちゃうんですけど、視野を広げてもらいました。小さく固まっちゃった枠から見ていた世界を、広げてもらったというか。毎日、監督が台本にないところを作り出してくれることが楽しみでした。『今日はどんな出会いがあるのかな』って。例えば、僕の考え方が“空”で、監督が“海”だとするじゃないですか。僕は今日、『空で行こう』と思ってたのに『いや、海でしょ』って言われると、最初は正反対だと思うんだけど、実は空と海ってすっごい先でつながっているような。驚きの連続だったし、新しく納得することがたくさんありました。やっぱり、発見があるとおもしろいじゃないですか」
――なるほど。とはいえ言語を超えての繊細なものづくりは、お互いに簡単なことではなかったと想像します。
イ「とても難しかったです(笑)。しかし、皆さんの努力によって実現することができました。例えば現場で『どうして、ここでこういう言葉が出るんでしょうか?変な感じがします』と、疑問や質問が出ますよね。その時『じゃあ言いやすいように変えてください』と言うのではなく、時間がかかってでも意図を伝えて、話し合いをするんです。それによって『そういうことなら、この言葉がいいですね』と、私が意図することをもっとも適切な言葉で表現することができました。私と山下さんが通訳を介することなく、英語で意思疎通を図れたことも大きかったと思います。それができなければ、もっと大変だっただろうなと」
山「僕も、監督と直接コミュニケーションが取れたことは大きかったです。カジュアルなことも、映画についてもたくさんお話をさせてもらって、そういうすべての時間が大切でした。そして監督は冷静でしたが、常に全力以上で現場にいてくださった。僕らは、その情熱に引っ張っていただきました」
――この作品を通して、もっとも表現したいと思ったことは?
山下「『愛ってなんなんだろう』という疑問をどう紐解いていくかが一つ、大きなテーマなんじゃないかと。脚本に『魂』という言葉が出てくるんですが、日本に住んでいるとなかなか聞く機会が少なくなっていますよね。でも、一番大事なのは心の中にある強い魂だと僕は思っています。この作品を通して改めて、強い魂が大きな愛に繋がるんだと思ったし、見えないし聞こえないけど、魂はここにある。そういう最もコアな部分にある熱を感じられる、魂で訴えかけている作品だと感じました。そしてそれが、僕の魂にも響いたなって」
イ「私はこの映画に、山下さんが言ってくれたような魂を込めたいと思っていたんですが、あまり言葉にはしてこなかったつもりなんです。だから、いま山下さんが言葉にしてくださったことがすごくうれしかったです。脚本を書いている時も、撮影現場で映画を撮っている時も、常に心の中では『魂が熱望しているものを表現したい』『心じゃなく魂を揺さぶるなにかを見つけ出したい』と願っていました。ですから山下さんの言葉は、本当にうれしいです。そして、私がもう一つ表現したかったのは『気付き』です。真治は目が見えなくなったけど、真実が見えるようになった。『僕は見えないけど見えている』、まさにその言葉です」
――「見えないけど見えている」…山下さんが歌う主題歌「I SEE YOU」のタイトルにも通ずるものがありますね。
イ「タイトルは、僕が考えました。曲を選ぶ過程にも参加して、歌詞にもたくさん意見を出させてもらったんです。映画の中にたくさん出てくるリルケの詩の引用は、この曲からインスピレーションをもらったものです」
山下「それから、ミュージックビデオも監督に撮っていただいたんです。撮影が終わって、真治のDNAが僕の中に宿った状態で制作に携わったので、歌っているのは真治と僕の間くらいの感覚ですね。この作品とすごく深く繋がっている、情熱的な歌です」
――最後に。「愛する」とは、どういうことであると思いますか?
イ「難しい質問ですが…以前、『私の頭の中の消しゴム』という作品で表現した愛が『寛容と許し』でした。一方で本作における愛とは『感覚を超越した信頼』。そして自己犠牲ですね。それは作中に描いたオー・ヘンリーの『賢者の贈り物』のように、自分のなにかを犠牲にしてでも相手になにかをしてあげたいと思うこと。私は、愛とは信じることと犠牲だと思います」
山下「(しばらく考えて)僕はまだ愛を探している途中ですけど、この作品に携わって、真実の愛というものの形が少しだけ見えてきたような気がします。愛にも、恋人への愛、親への愛、友人への愛といろんな愛があるんだけど、『信頼と絆』はそのどれにも共通する、すごく大切な部分なのかなって。それと、監督がおっしゃった『許す』ということ、これも愛には必要不可欠な要素だと思います。どうしても傲慢になってしまう時ってあるし、自分の理想や形にはまらない時には複雑な気持ちになることもあるけど、それも含めてすべてを包み込める寛容さを持つことが、ひとつの大きな愛の指標なのかなと思いますね」
――本作は「愛するとはなにか」を考える機会を、見る人に与えるような気がします。
山下「僕も、人生はどうせ一回しかないって考えると、情熱的に愛したいと思いました。現代って生きやすい世の中になっていて、メッセージ一つで意思疎通が取れちゃうような便利さが、僕らの情熱を奪っている感覚があるんです。だから人間がもともと持っている情熱や、魂で愛を探したいなって思いました」
取材・文/新亜希子