『みなに幸あれ』がプチョン国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞!「ホラー映画のレシピを完璧に完成させている」と絶賛される
日本初のホラー映画専門のフィルムコンペティション「日本ホラー映画大賞」で第1回の大賞に輝いた下津優太監督の短編映画を、同賞の選考委員長を務めた清水崇の総合プロデュースのもと、下津監督自らの手で長編リメイクした『みなに幸あれ』(2024年公開)。このたび本作が、プチョン国際ファンタスティック映画祭でメリエス国際映画祭連盟(MIFF)アジアンワード・ベストアジアフィルム(最優秀アジア映画賞)を受賞した。
“誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている”という人類の宿痾ともいえる根源的なテーマに触れる本作。看護学生の“孫”は、ひょんなことから田舎に住む祖父母に会いにいく。久しぶりの再会に、家族水入らずで幸せな時間を過ごしていたが、どこか違和感を覚える孫。祖父母の家には“なにか”がいる。やがて人間の存在自体を揺るがすような恐怖が迫ってくることに…。
韓国のプチョンで6月29日から7月9日まで開催されたプチョン国際ファンタスティック映画祭には、51の国と地域から262作品が出品され、『みなに幸あれ』は「Adrenaline Ride」部門で上映。受賞したMIFF最優秀アジア映画賞は、アジアのファンタスティック・ジャンル映画の発掘応援を目的に贈られる賞で、昨年は二宮健監督の『真夜中乙女戦争』(21)が受賞している。
7月7日に賞の受賞が発表されたこともあり、翌8日にプチョンのシティーホールメインシアターで行われた上映のチケットは完売に。上映後には下津監督と清水によるティーチインが行われ、下津監督は「初めての長編映画で初めての国際映画祭。初めての舞台挨拶のため緊張しています」と挨拶。賞の受賞については「正直英語を深く理解できないので、少しウトウトしていたところ、自分の名前が呼ばれてとても驚きました」とコメント。
また清水も「朝早くから(注:10時30分より上映が開始された)クレイジーな作品にお越しいただきありがとうございます。今回僕はプロデューサーという立場で監督をサポートする側なのですが、僕が選考委員長を務める『日本ホラー映画大賞』の第1回グランプリが下津監督で、その監督の初の長編作品が海外映画祭で受賞して僕もうれしいです」とにこやかに語った。
ティーチインで作品の題材について訊かれた下津監督は「幸せな人と不幸な人を足し合わせるとゼロになる“地球上感情保存の法則”というテーマをもとに、一家に“一生贄いる”世界線の話です。あまりテーマを説明しすぎないように描き、タイトルには希望と皮肉の意味を込めました」と説明。
そして「第二のテーマとして、難しい問題に直面した時にその現実を見つめるだけでは悲しすぎる、理想を描くだけではなにも解決しない。私は現実を受け入れて、理想を描き続けることが希望だと考えています。一見バッドエンドに見えたかもしれませんが、最後の主人公の顔を見て、現実を受け入れて理想を描き続けているのであれば、私はハッピーエンドだと考えています」と語った。
また本作で主人公を演じ、ホラー映画初出演を果たした古川琴音について「演技力が抜群で、いい意味で普通。短期間の撮影だったのでテイクも1〜2回のことが多く、古川さんでなければ成立しなかったと思っています」と称賛。他にも、劇中で短い台詞でリズムをとっていることを指摘され「映像で語るのではなく映像でみせるのが良いと思っています」と自身のモットーを明かした下津監督は、好きな監督を訊かれると、M.ナイト・シャマランとジョーダン・ピール、ヨルゴス・ランティモスの名を挙げていく。
最後に「タイトルに希望と皮肉を込めていると言いましたが、いつの日か希望だけの意味になる日が来るといいなと思っています。映画にはそれを実現できる力があると考えています」と力を込めて語り、「自分にとって今回が初めての国際映画祭への参加。上映後の観客とのQ&Aで通訳を通してですが、言語・文化を超えて伝わるものがあると、確かな手応えを感じることができました。公開までこの映画とこの想いを大切に育てていきたいです」と述べた。
映画祭の審査員からは「エレガントでありながら一見シンプルなこの映画は、他の多くの映画よりもホラーとダークユーモアを内包していると同時に、より大きな社会問題にも言及している。私たちは伝統によってもたらされる幸福と戦うことができるか?そして他人の幸福のために、自分たちの幸運を諦めるべきか?不気味な雰囲気があり、いまでもコンセプト全体について考えさせられる。強力なストーリー、独創的なアイデア、ダークユーモア、田舎暮らしという要素が賢く、暗いホラー映画のレシピを完璧に完成させています」と絶賛するコメントも寄せられている。
「リング」シリーズや「呪怨」シリーズが牽引した“Jホラー”ブームから20年余りの時を経て、“令和の新しいホラー作家”発掘を目的にスタートした「日本ホラー映画大賞」。そこから世界に向けて飛び立とうとしている下津監督が作りあげた斬新な恐怖の世界は、いったいどのようなものなのか?『みなに幸あれ』は2024年に劇場公開予定。さらなる続報に注目していきたい。
文/久保田 和馬