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「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」で来日したバズ・ラーマン監督にインタビュー!「今回の日本滞在で、クリエーションへの活力を得た」

インタビュー

「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」で来日したバズ・ラーマン監督にインタビュー!「今回の日本滞在で、クリエーションへの活力を得た」

「『ムーラン・ルージュ』は、私にとってものすごく特別な体験だった」

 【写真を見る】帝国劇場のステンドグラスもお気に入り!「日本文化に溶け込みたい」と語るバズ・ラーマン監督
【写真を見る】帝国劇場のステンドグラスもお気に入り!「日本文化に溶け込みたい」と語るバズ・ラーマン監督撮影/興梠真穂

今回のミュージカル版に関しては、演出家としてではなく「“おじ”くらいの距離感で関わった」というラーマン監督にその真意を訊ねると、「“おじさん”というより、もはや“おじいさん”のような立場だけどね(笑)」とジョークを交えつつ、クリエイターの矜持を語ってくれた。

「最初はミュージカル版も自分で演出を担当するつもりでいたんですが、『やっぱり僕は昔には戻りたくない、後戻りしたくない』と思い直したんです。私が『ムーラン・ルージュ』を作ったのはたしか37~38歳のころですが、戻りたくてもあのころの自分には戻れないし、どうせやるならいまの自分に合った仕事をしたいと思って、演出家のアレックス・ティンバースと、彼のクリエイティブチームに譲ることにしたんです。結果的に、それで正解だったと思います。彼らはいまの観客の嗜好に合うように、オリジナル版から構成を大胆に変えています。要は、舞台というのは生き物なんですよね。この時代、この場所にふわさしい作品であるためには、まさに“いま”に生きてないといけないわけです。1950年代に最高に良かったとされるものを、そのまま現代の舞台で上演したら、それは死を意味しているようなもの。私が、彼らのやり方が非常に賢明だと思う点は、映画の主要な音楽はちゃんとキープしているということ。クリスチャンには音楽家としての才能があるから、レディー・ガガの楽曲も含めて、次から次へとさまざまな愛の歌を生み出せるわけですよ(笑)」

「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」より
「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」より写真提供/東宝演劇部

映画を製作していた当時、「実際に自分たち自身も『真実・美・自由・純愛』をなにより大切にしながら生きる、ボヘミアンのような暮らしをしていた」というラーマン監督に、ずばり「あなたにとって『ムーラン・ルージュ』とは?」と尋ねると、「これまで手掛けてきたすべての映画が自分の子どものような存在であり、どの作品も私の人生の大切な一部分。後悔のある映画は1本もないんです」という答えが返って来た。「私には実際に18歳と19歳の子どもがいますが、二人子どもがいたらどちらが好きとは言えないし、それぞれ違う愛し方がありますよね。でもまぁ、そうは言ってもやっぱり『ムーラン・ルージュ』は、私にとってものすごく特別な体験ではありました。

当時は、“ミュージカル映画”というジャンルさえも世の中から失われていた時代でしたから、『なぜいまこんなものを作るのか』と、メディアだけでなくスタジオからも大バッシングを受けていたんです。私が映画を撮影している時は、常にドラマチックなことが起きるようで(苦笑)、『エルヴィス』の製作時は世界中がパンデミックに見舞われましたし、『ムーラン・ルージュ』の時も、撮影の初日に私の実父が亡くなるなど、様々な予期せぬハプニングがありました。あれだけ楽しそうに、人生の喜びを表現した映画ではありますが、当時の私はとてつもなく大変な状況でした」

 「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」より
「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」より写真提供/東宝演劇部


今回の日本滞在中、様々な刺激を受け「クリエーションへの活力を得た」というラーマン監督。「言い方に気をつけないといけないんですが、私も60歳になりまして。映画や演劇を作ったりすることは、いわゆる9時~17時で働く会社員とはまったく違う類のもので、本当に自分の人生の一部をそこに注ぎこむような感覚なんです。だからこそ、それが本当にいま自分がやりたいことなのかどうか、その都度、注意深く判断していく必要があるんです。正直いまの時点では、『別に無理して映画を作らなくても生きてはいけるし…』と思ったりもするんですが(笑)。今回の日本公演のプレビューで、およそ2000人もの観客たちが舞台を観て歓喜している姿を目の当たりにして、私も『もっと映画や舞台を作りたい、これこそがいま私がやるべきことなんだ』と、改めて実感させられました」

 バズ・ラーマン監督
バズ・ラーマン監督撮影/興梠真穂

さらに「日本人の友人もたくさんいるし、慣れ親しんだ土地でありながらも、完全に逃避できる貴重な場所でもある。だって、本国にいるときほど周りに気付かれずに自由に過ごせるからね」と日本で過ごす利点を語りながら、「いまはそこからさらに一歩踏み込んで、『日本文化に溶け込みたい』という気持ちが、今回の滞在を機にすごく強くなってきた」と心境の変化も口にする。「まさに、いまいる帝国劇場のロビーのステンドグラスもすごく素敵だし、コーヒーショップのちょっとした内装にも日本ならではの美的センスを感じます。日本には『明治村』というのがあると聞いて、その場所にも興味を持ちました。できることなら車移動ではなく、自分の足で電車やフェリーに乗って、まだ見ぬ日本の魅力に触れてみたい。自分ひとりで日本各地を自由に旅してみたい、という野望がありますね」

取材・文/渡邊玲子

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