「『マイ・エレメント』は両親への感謝を示した映画」監督が明かした、亡き家族と作品に込めた想い
これまでいろいろな“もしもの世界”を描いてきたピクサーが、今度は火、水、土、風の元素(エレメント)の世界を圧倒的な映像で想像力豊かに描く最新作『マイ・エレメント』(8月4日公開)。今回監督のピーター・ソーンに、今作の製作の舞台裏についてたっぷり語ってもらった。
「自分が生まれ育った場所ながら、他人からすれば別の場所から来た人に見えることを理解していく」
今作は、4つのエレメントたちがそれぞれの特性に合わせた形で共存している大都市「エレメント・シティ」を舞台に、同じ街に住みながらも触れ合うことすらできない“火”と“水”の正反対の2人のキャラクターの出会いと、そこから生まれる“化学反応”を描いていく物語。
ストーリーには多くのテーマを内包する映画だが、なかでも監督がもっとも重視したのが“自分の居場所”なのだという。「主人公の“火”の少女エンバーは、最初は自分の居場所は家だと思っています。そこには炉があって火を守っている場所でもあります。しかし、彼女が街に出るようになって段々と世界を理解し、さらに彼女は“水”の青年ウェイドと出会います。ウェイドはなにかを教えてくれるというようなキャラクターではなく、いわば鏡であり、彼を通じてエンバーは自分のアイデンティティをより深く理解し、難しい決断を下していくことになります。自分が生まれ育った場所で暮らしながらも、他人からすれば別の場所から来た人に見えるということを理解していくのがエンバーの物語の重要なポイントであり、私の実体験に基づいています」。
この映画は韓国からアメリカへの移民である両親に育てられた監督自身の実体験が多く活かされている。「自分と兄弟を育てるために本当にいろんなものを犠牲にしてくれた両親への感謝を示した映画でもあるんです。子どもの時は全然気づかなかったのですが、自分も親になって両親がどれだけのことをしてくれたのかがよくわかったんですよ。それが映画の核となっています。それと同時に韓国系ではない妻と結婚することとなった時に起こった文化の衝突も映画の基礎となっています」と監督は説明する。
そのほかにも、「(エンバーの父親と同じく)私の父も雑貨屋を経営していて、当時は英語があまり上手くなくて慣用句を間違えて使うことが多かったですね。また、父が妻の家族に辛い韓国料理を振る舞った時なんかの話も映画に使われています。さらに祖母は私たち兄弟や甥たちに『韓国人と結婚しなさいね!』と言っていたんですが、それも映画に取り入れてもらいました」。
そして監督は「ただ、私だけでなく多くの移民や移民二世である製作スタッフの実体験もたくさん盛り込まれていて、私だけの話ではなくなっています」と付け加える。