「『マイ・エレメント』は両親への感謝を示した映画」監督が明かした、亡き家族と作品に込めた想い
「“希望”がストーリーを動かしていく原動力となって、キャラクターたちにそれ以前とは違った形で命が吹き込まれました」
この映画は本当に長いこと監督が温め続けてきた企画で、元素(エレメント)が共存する世界は子どものころに元素記号の周期表を見た時に思いついたものだという。それから大人になって業界に入って作りだした、移民の子を主人公とするストーリーというアイデアもピクサー内部では好評だったものの、製作決定から完成までには8年ほどかかったという。
その理由について監督はこう語る。「今回の映画のキャラクターたちを作りだせる体制がなかったというのが大きいです。ピクサーはこれまで人はもちろんおもちゃや車などのキャラクターを作るのには慣れていましたが、今作のキャラクターはいわばエフェクトの塊であって、当時はそんなキャラクターで映画をまるごと一本作ることができる作業環境が整っていませんでした」。
そしてコロナ禍の影響も少なくなかったと監督は語る。「いろいろなところで遅れが生じました。製作の大部分がコロナ禍の真っ只中でしたが、本当に辛かったですよ。みんなで一緒に働くのが大好きですし、映画のテーマも“つながり”だっていうのに、集まって仕事ができないなんてね(笑)。しかし、そんななかでもみんなでつながる方法を見つけることができて、それが作品づくりへの刺激にも繋がりました。そして最後の1年で徐々にスタジオに集まれるようになり、仕上げができました」。
しかし、困難はコロナ禍だけではなかったという。「一番つらかったのは、製作の途中で両親が亡くなったことですね。かなり落ち込みましたが、みんなと働いていくなかで希望を取り戻し、ストーリーを作っていきました。そして“希望”がストーリーを動かしていく原動力となってキャラクターたちにそれ以前とは違った形で命が吹き込まれ、本当にワクワクする仕上がりになっていきました」。
「火と水のキャラクターは本当に本当に大変でした!」
なんといってもこの映画の“ワクワクする”ポイントは火、水、土、風のエレメントのキャラクターたちそれぞれの特性を活かしたシーンの数々だ。その誕生の舞台裏を監督はこう説明する。「当初は火や水をスーパーヒーローのように投げたりする感じだったのですが、それでは上手く行かず、感情の変化に合わせて火や水を表現してみることにしました。アンバーが怒ると爆発したり、弱気になると火も弱火になるといった感じですね。その発見で一気に考え方が変わり、脚本チームもそれを活かしたストーリー作りをするようになりました」。
そんなキャラクターたちを生みだすための綿密なリサーチを行い、多くの専門家たちに話を聞いていったという。「水がどんな損害を出すかを水道業者に聞きに行ったりもしましたね。だけど、それもコロナ禍でできなくなり、そこからはYouTubeにある実験動画などを観ていくことになりました。そしてアーティストたちが自分たちの家でも実験するようになったんです」。
ただ実際に映像化するのには困難が伴ったと監督は語る。「火と水のキャラクターは本当に本当に大変でした!火や水の動きをコントロールする方法を探すのが特に大変で、それをシーンに必要な形で擬人化するというのが、さらに大変でした。当初はエンバーの火はリアルで明るく、地獄の炎のような怖さがありました。それをどうにか2Dっぽい見た目にして抑えて、ちょうどいい塩梅を探っていきました」。
そこで役に立ったのがAIを用いた技術だったという。「ニューラル・スタイル・トランスファー(ニューラル画風変換)という技術でした。描いた画像を機械学習させて、さらにそれを3Dで増殖させてくれるというものです。AIではあるのですが、最近のAIのように無数の画像を学習して生成するのではなく、あくまでいくつかの画像を与えてそれを増殖させるというだけのものです。そこに別のツールをいろいろ組み合わせて、火をコントロールできるようになりました」。
多くのテクノロジーが駆使され見どころがたくさんの映画だが、監督はぜひ劇場で3Dで見て欲しいと熱く語る。「とにかく劇場で公開することを考えて細かなデティールまで作り込みました。ぜひほかの観客と一緒に笑ったり泣いたりしながら“つながり”を感じて欲しいですね。そしてぜひ3Dで観て欲しいです。3D映画にするのは本当に大変でしたが、別世界にいるような最高の体験を提供できるよう限界まで頑張りました。いろいろなシーンやデティールが3Dではより一層、クレイジーで楽しいものになってると思います」。
取材・文/傭兵ペンギン