暗闇からひたひたと迫る“影“『ブギーマン』、クローネンバーグが創造する強烈なSF世界『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』など今週観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、ホラーの巨匠、スティーヴン・キングの短編小説が原作のサスペンスホラー、「人類の進化についての黙想」をテーマに掲げたデヴィッド・クローネンバーグ最新作、最悪の誤報をきっかけに歩み寄る指揮者父子の姿を描くヒューマンドラマの、人間の心に迫る3本。
心理的な怖さも味わえる王道のホラー…『ブギーマン』(公開中)
ブギーマンとは、民間伝承やおとぎ話で語り継がれる架空の魔物のこと。ハリウッドのホラー映画では、寝つけない子どもがクローゼットの中やベッドの下に恐ろしいなにかが潜んでいるのではないか、と脅えるシーンがしばしば描かれるが、その恐怖の根源がブギーマンなのだ。しかしブギーマンには、一つの決まりきった姿形がない。そのため過去には「ハロウィン」シリーズの不死身の殺人鬼マイケル・マイヤーズを始め、作り手のイマジネーションによって多様なブギーマンが創出されてきた。
スティーヴン・キングの短編小説「子取り鬼」を原作にした本作は、突然の事故で母親を亡くす悲劇に見舞われた女子高生セイディと幼いソーヤーの姉妹が、得体の知れない怪物から逃げまどう姿をスリリングに描出。暗闇からひたひたと迫ってくる“影“のようなブギーマンのビジュアルに加え、心理的な怖さも味わえる王道のホラーに仕上がっている。(映画ライター・高橋諭治)
人間の欲望を見つめた視線…『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(公開中)
鬼才デヴィッド・クローネンバーグ、実に8年ぶりの新作!『裸のランチ』(92)をはじめとするアーティスティックかつ挑発的な作品で知られる彼が、またも問題作を投じる。未来世界、体内で新たな臓器を生み出してしまう奇病に冒された男が、臓器摘出をパフォーマンス・アートとして発表している…という設定だけで、かなり異様。
それに止まらず、物語はプラスチックを食べていた少年の死体の出現によって、ミステリアスな方向へ発展していく。環境破壊に適応し、進化する人体。アートと化した手術と臓器。鮮血やグロテスクなアイテムなどの強烈なビジュアル、そして人間の欲望を見つめた視線は、まさにクローネンバーグの真骨頂だ。この強烈なSF世界を、どう受け止める!?(映画ライター・有馬楽)
不協和音を奏でる父と息子の再起を描く…『ふたりのマエストロ』(公開中)
ともにフランス音楽界で指揮者として名を馳せる父のフランソワ・デュマール(ピエール・アルディティ)と息子のドニ(イヴァン・アタル)。ある時、世界最高峰の歌劇場であるミラノ・スカラ座の音楽監督就任依頼がフランソワに舞い込む。だが、その依頼はまさかの“デュマール“違いだった!第64回カンヌ国際映画祭で脚本賞に輝き、第84回アカデミー賞でも外国語映画賞にノミネートされたイスラエル映画『フットノート』(14)を下敷きにした本作は、不協和音を奏でる父と息子の再起を描くヒューマン・ドラマだ。
いまや自身を凌駕する才能を発揮する息子の栄光を祝えないフランソワと、父の生涯かけた夢が叶ったのを素直に喜べなかったドニ。同じ業界で活躍するライバルである父子の関係は、一度すれ違ってしまったがゆえになかなか厄介だ。ギクシャクする祖父と父が心の底ではお互いを大切に思っていることをちゃんと理解しつつ、自分の進む道を選びとっていくドニの息子マチュー(ニルス・オトナン=ジラール)の存在がひたすら頼もしい。そんな三世代に渡る父と息子の物語に目頭が熱くなる一方、もう一つの見どころとなるのは音楽シーンだ。監督、脚本を務めたブリュノ・シッシュは大のクラシック好きで、スカラ座で指揮をとった経歴を持つ小澤征爾へのリスペクトも込められた本作では、モーツァルトの「フィガロの結婚 序曲」ほかクラシックの名曲たちが物語を彩る。クライマックスとなる絢爛豪華なスカラ座のシーンでは、大迫力の演奏にうっとりするだけでなく、まるでオペラのような大団円にびっくり!(ライター・足立美由紀)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼