アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第22回 未解決事件|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第22回 未解決事件

映画ニュース

アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第22回 未解決事件

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第22回は怪人たちの狙いが判明する!?

ピンキー☆キャッチ 第22回 未解決事件

イラスト/Koto Nakajo

おもむろに立ち上がり、木原はブラインドに指をかけて外を眺めた。外灯の明かりが木原の顔に深く陰影を作ったが、思いのほか埃がたまっていたのだろう。バツが悪そうにズボンに擦り付け、再び腰掛けた。

「これもSFの見過ぎだろうと言われればそれまでなんだが…。奴らがエネルギー源を回収しようと目論んでいる筋も考えられるんじゃないか?」
「エネルギー源…ですか?」
「奴らからすると貴重な資源がこの地球上にあると仮定して…それらが東京23区に特に多く存在している物だとしたら…」

上司の推理を、肝の座った遠山が遮った。

「23区に資源なんてありますか?地下を掘るにしても、もっと資源が豊富で効率のいい国や地域があるんじゃないですか?」
「もちろんそう考えるのが自然だろう、しかしそれは我々にとっての資源となる場合だ。石油やレアメタルだとは限らない。人類には珍しくない物でも、地球外生命体にとって貴重な物があるのかもしれない」
「東京に資源…あるかなあ?」

吉崎は人差し指で一つ一つ確認しつつ、話をまとめた。

「その地球外生命体が怪人を出現させ、世間の視線と時間を稼ぎ、その騒ぎに乗じて何者かが何かを回収している…。そう考えると、怪人の戦闘能力があの程度である事も説明がつきますね。遠山君、君を頭に数人のチームを結成する。警視庁に連絡を取って、そうだな…23区内で、ここ一年以内に起きた不可解な事件や、未解決の盗難の記録を洗ってもらってくれ。規模は問わずにだ」

「承知いたしました」

ノートパソコンを素早く畳み、遠山は部屋を出た。警視庁との連携・記録資料の洗い出しを終えるのに数日かかるだろうという事でこの場は一度散会となり、会議室には都築と吉崎が残った。

「とは言うものの、あくまで仮定の話だ。そんなに慎重を期してまで得たい資源が東京にあるというのは、やはり考えずらい」
「地中を掘って出るのは温泉くらいのものでしょうからね…。だけど目眩しの為にあの規模の怪人を送り込んでいる説には合点がいきます」
「ほう、どんな見地からだね」
「今回の説が正しければ、奴らは資源を回収するまでは事を荒げたくないのでしょう。その気になればもっと大規模な攻撃が可能なのでしょうが、自衛隊が派遣される程の規模ではマズい理由があるのかもしれません。だから小出しにあの規模の怪人を送り込んでいるのかもしれません」
「うん……その資源が、大規模な戦闘が起こると回収が難しくなるデリケートな物なのかもしれないな」
「デリケートな物…。なるほど、そういう考え方もありますね」
「とりあえず警視庁からの情報を待とう。都築君も大分疲労が溜まってるはずだ、ゆっくり休みなさい」

2日後、警視庁との連携・記録資料の洗い出しを終えたとの連絡が入り、先日の会議室には木原を除いたメンバーが集まった。東京23区内で、ここ1年間に起きた犯罪の資料がジャンル分けされ、各手元に配られた。

「解決済みの事件は資料から消してあります。殺人・暴行・盗難・軽犯罪で大きく4つに分けました」
「軽犯罪まで入れるとこんな膨大になるんですね」
「まあ今回のケースでは主に盗難のジャンルに絞っていいと思う。遠山君、紛失届もまとめてくれているのかな?」
「はい、盗難のジャンルには紛失届のリストも入っています。ザッと目は通しましたが、私の主観が入るといけないので特に区分けはしてありません」

3人で資料に目を通し、少しでも怪しいと思うものをピックアップしていこうと決めた。

「やっぱり財布や携帯の紛失届がほとんどだな。落としたのか盗まれたのか判断が難しいんだろうな」
「これ見て下さい。花壇の花を盗む人なんているんですね、こういうのほんとヤダ!」
「うわあ!履いてたはずのズボンが無くなったって。酔っ払ってたのかなあ」
「きゃあ!現金4千万円が入ったカバンが紛失ですって!なんで持ち歩いててどこに忘れるの!?こんなの」

部屋を片付けしている時に、懐かしい写真や手紙が出てきて本筋が進まなくなるアレだ。珍しく興味深いデータにばかり目がいって、横道に逸れては戻るを繰り返した。しかしそんな横道が本筋になる案件かもしれず、少しでも目につくものは余す事なく共有していった。

「へぇ。ほら遠山、歌舞伎町のホストクラブからシャンパン盗難の被害届だとさ。推し活もしばらくお預けだな」
「あら残念、どこがそんな所に通えるほどの月給をくれてるのかしら。もう都築さん、ふざけないでちゃんと調べて下さい」

資料に目を通す作業も4時間を過ぎるとテンションが崩れてきた。さすがの吉崎も大あくびをしながら目頭のコリをほぐしている。怪しげな記録はパソコンに取り入れていったが、正直どれもピンときたものではなかった。

『マンションのドアノブが5つ破壊』
『練馬駅前の違法駐輪自転車のサドルにマツヤニが塗られる』
『碑文谷の民家の庭に大量のしらたきが投げ込まれる』

どれもこれも怪しくはあるものの、はるばる地球外から来てまでやる事ではない。そもそも奴らの狙いの一端が、このリストに載っているとも限らないのだ。

「一旦引き上げますか」

都築が体を大きくそらせて提案しかけた時、吉崎が「あれっ」と声を出した。

「どうかしましたか?」
「都築君、さっきのホストクラブの盗難届はどこにある?」
「ホスト・・シャンパンの盗難のですよね?ええと・・・・ああ、これですね」
「ちょっと見せてくれ」

彫りの深い目元を更に深くして資料を見比べていたが、2人に向けて用紙を差し向けてきた。

「果たしてこれは偶然かな?」

吉崎が目をつけた資料には、大手リカーショップ以下、都内7件の酒屋からシャンパンが大量盗難にあった被害届が記載されていた。その全ての末尾には『未解決』との赤文字も添えてある。なるほど、先程のホストクラブでのシャンパン盗難事件と関連がありそうでもある。

「これが全部盗難だとして、自分が飲む為とは考えられない量だな。この酒屋なんて倉庫から1ダース入りを50箱盗まれている」
「都築さん、シャンパンって高いんですよね?」
「あまり詳しくないがピンキリだと思うな。さっきのホストクラブは…13箱。9本入りで117本か」
「他の酒屋もそれなりの本数だ。もし人力で運び出すと考えるとそれなりの人数と時間がいるだろう。しかし防犯カメラもあるだろうに、全てが未解決なのが不自然だと思わないか?」

「確かにそうですね。改めて盗難時の詳細を確認してみましょう」
「あぁ~~!!ちょっと・・」

遠山が声を上げた。無言で差し出された資料には歌舞伎町から渋谷、池袋等々、ホストクラブ・キャバクラ・ガールズバーに至るまで、様々な店舗からシャンパンが盗難された記録が記載されていた。
その後の作業では、更に多くの店舗からの届出を見つけ出した。被害は勿論シャンパンである。例に漏れず、その全ての欄には『未解決』の文字が不気味に赤く光っている。

『奴らは何故…いや、奴らだとするのなら何故シャンパンを…』

すっかり暮れた暗い夜空を、都築は窓越しに睨んだ。甘ったるく喉を刺すシャンパンのような色の月が、鈍く防衛省を照らしていた。

(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
作品情報へ