濱口竜介監督、黒澤明監督と比較される偉業に「とても光栄」『悪は存在しない』ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞記者会見で心境語る|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
濱口竜介監督、黒澤明監督と比較される偉業に「とても光栄」『悪は存在しない』ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞記者会見で心境語る

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濱口竜介監督、黒澤明監督と比較される偉業に「とても光栄」『悪は存在しない』ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞記者会見で心境語る

第80回ヴェネチア国際映画祭にて、銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した濱口竜介監督最新作『悪は存在しない』(英題:Evil Does Not Exist) の報告記者会見が9月12日、日本外国特派員協会 にて行われ、濱口竜介監督と主演の大美賀均が登壇した。

【写真を見る】「できるだけ長く映画を作りたい」と笑顔を見せた濱口監督。作品だけでなく、日本映画業界についての質問にも丁寧に答えた
【写真を見る】「できるだけ長く映画を作りたい」と笑顔を見せた濱口監督。作品だけでなく、日本映画業界についての質問にも丁寧に答えた

本作は第74 回カンヌ国際映画祭脚本賞など4冠、第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイカー』(21)で初顔合わせした濱口監督と音楽の石橋英子による共同企画。「音楽×映像」プロジェクトとしてスタートし、音楽ライブ用の映像を制作する過程で106分の長編劇映画として完成した。会見冒頭には石橋からのお祝いコメントを読み上げた濱口監督が、石橋を始め、本作制作に関わったすべての人々に改めて感謝を伝えた。

カンヌ、ベルリンといった国際映画祭に加え、米アカデミー賞でも賞を射止めている濱口監督。世界三大映画祭の各コンペティション部門とアカデミー賞の4つすべてで賞を獲得するのは、日本人では黒澤明以来の快挙。会見では、黒澤監督が30年かけて達成した偉業を、3年でやり遂げた濱口監督に改めて賛辞が贈られた。黒澤と比較されることについて「とても光栄」と前置きしたうえでその受賞内容に触れた濱口監督。「比べ物にならないとは言わないけれど、比較されるたびに黒澤監督の成し遂げたことのスケールの大きさがあらわになっていると感じています」と笑顔を見せ、「(映画を作り)評価を得ること(だけ)が必要なこととは思わないけれど、いまは、この先できるだけ長く映画を作り続けたいとは思っています」と現在の心境を明かしていた。

本作はアウトプットよりもインプットの作業という印象だったそう
本作はアウトプットよりもインプットの作業という印象だったそう

濱口監督は、会見会場を見渡し「ヴェネチアでお目にかかった人もいらっしゃるようなので、まずは『お互いにお疲れ様です』と言いたいです」とニッコリ。現地で取材した記者を労うコメントで、会見冒頭から会場を穏やかなムードに包み込んだ。映画完成までの具体的なプロセスについては「摩訶不思議な始まり方をしている映画」と答えた濱口監督。「最初は『ライブパフォーマンス用の映像を作って欲しい、内容はなんでもいい、おまかせする』というものでした」と企画序盤のやり取りに触れる。

1年ほどのやりとりを通じて、濱口監督が作る物語であれば石橋は受け入れてくれると”はっきり”分かったタイミングで、具体的に動きだしたという。「なにをやってもいいとはいえ、限定性が欲しい」と考え、石橋の音楽が生まれている場所の近くならインスピレーションを得られると思い、現地を訪れたという濱口監督。「石橋さんの音楽と豊かな自然はよく合うと思ったので、それを題材にしました」と説明。さらに、その地で映画で描かれる内容と同じ出来事があったことも知ったそう。「とても現代的な話」だと感じ、物語にすることを決めたとも明かしていた。石橋とは、音楽と映像をまるで手紙のようにやりとりし、最終的な形に至ったという。「音楽的にセッションしているような感覚。とても得難い体験でした」と制作過程を振り返った。


主演を務めた大美賀均は「ご褒美のような体験」と映画出演の感想を明かした
主演を務めた大美賀均は「ご褒美のような体験」と映画出演の感想を明かした

会見では10月1日より導入される「インボイス制度」についての質問も飛び出した。自身もフリーランスなので他人事ではないとしながらも「よく分からないというのが正直な感想です」と話し、「合点がいかないから質問も多いのだと思います。自分の理解力も踏まえたうえでの感情論にしかならないですが、確かな情報が十分に与えられないなかで、生活の糧をどこかむしりとられているような感覚を持っています。いま、アメリカ(の映画業界)ではストライキが起きていますが、そういうことにつながりかねないということは申し上げたい」と思いを伝えていた。

撮影時の様子を振り返り、笑顔を見せる場面も
撮影時の様子を振り返り、笑顔を見せる場面も

本作と共通の映像素材から作られた石橋の音楽ライブ映像『GIFT(ギフト)』は10月にベルギーで開催されるゲント国際映画祭で初お披露目。以降、石橋のライブ・パフォーマンスとともに世界各地で上映が予定されている。

映画『悪は存在しない』は2024年GW公開予定。

取材・文/タナカシノブ

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