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神田伯山が語った“挑み続けた男、アントニオ猪木”の生き様「最後の最後までアントニオ猪木のままでいた」

インタビュー

神田伯山が語った“挑み続けた男、アントニオ猪木”の生き様「最後の最後までアントニオ猪木のままでいた」

「ほんの些細な日常で、元気の源になっているとも感じました」

本作のオファーには、猪木を好きな人がたくさんいるなかでためらいもあった。そんな時伯山の背中を押したのは猪木の名言「道」だったそう。「猪木さんとは対談で一度お会いしただけで、親戚でもなければ近しい間柄でもない。いちファンというだけなのに、こんなにも心の支えだったんだということを実感しました。談志師匠が亡くなった時と同じ喪失感でしたから。猪木さんのことを全部信奉するわけではないけれど、まさに信者ですよね(笑)。それがなにかの縁で映画にまで出させていただけるなんて。猪木さんにお詳しい方も、長い年月を一緒に過ごされた方もたくさんいるなかで、正直『俺でいいのか』というのはありました。でもそこは『迷わず行けよ』の精神で。いろいろ逡巡しながらもオファーを受けたという感じです」と決断までの経緯を説明。そして、猪木とはどういった存在なのかを解説していく。

没後1年。“挑み続けた男、アントニオ猪木”に迫っていくドキュメンタリー映画が誕生
没後1年。“挑み続けた男、アントニオ猪木”に迫っていくドキュメンタリー映画が誕生[c]2023「アントニオ猪木をさがして」製作委員会 写真:原 悦生

「猪木さんって本当に日常にいるんですよね。映画でも話していますが、歯が痛いと感じた時に(アントニオ猪木の入場テーマ曲)『炎のファイター』が頭のなかでかかったり。虫歯を削っている時も自然と猪木さんの存在に助けられているというのか、託しているというのか。『虫歯くらいで音を上げてるんじゃないぞ』ってなるんです」と笑顔を見せる。「猪木さんの施術をした整体師さんから直接お話を聞く機会があって。みんなが悲鳴を上げるくらい痛いところを押しても、猪木さんは一切痛いと言わなかったそうなんです。もちろん痛みは感じていたはずだけど、そこで痛いと言ったらファンの幻想が崩れるわけじゃないですか。24時間アントニオ猪木だったことが分かるエピソードだなと。それを聞いて、僕も虫歯くらいで痛いとは言えないなと思うようになって。ほんの些細な日常で、なんかの活力というのかな、元気の源になっているとも感じました」。

猪木の存在は、些細な日常で支えになっていると語った伯山
猪木の存在は、些細な日常で支えになっていると語った伯山[c]2023「アントニオ猪木をさがして」製作委員会 写真:原 悦生

プロレスファンの伯山は猪木全盛期の世代ではない。「小学3年生のころからプロレスを観ていましたが、そのころの猪木さんは半分引退のような感じで、あまり試合にも出ていなくて。僕が強烈に意識したのは、中学の時に観た東京ドームでのドン・フライとの引退試合です。あの試合で『道』を聞き、なにかに迷ったら迷わずGOという決断をしなきゃいけないことを知ったというか。でもビデオは擦り切れるくらい観ましたが、小学生のころからプロレスを観に行っていた僕が、なぜあの試合を観に行かなかったのかがいまでも悔やまれるし、謎なんです。あの時、東京ドームに観に行かなかったからこそ、ビデオが擦り切れるくらい観ることになったのかもしれないけれど…」と振り返る。「米粒くらいの大きさでしか見えなくても、皮膚感覚で味わうことが大切だったのかなって。行かなかったことが、一生の後悔となったからこそ、今後同じような機会が訪れたら全部行こうという気持ちになりました。自分の精神的なものに多大な影響を与えたし、強烈なインパクトを残した出来事でした」と引退試合から人生の教訓を得たと話す。

「猪木さんのスケール感に圧倒されます」

伯山が猪木に惹かれる理由とは?
伯山が猪木に惹かれる理由とは?撮影/黒羽政士

印象に残る言葉を残すプロレスラーはたくさんいる。なぜ猪木の言葉が強烈に伯山の心に突き刺さったのだろうか。「桁違いに壮大であることだと思います。モハメド・アリ戦ひとつとってもそう。当時現役のヘビー級選手と戦うなんて、夢のような話ですよね。夢のような話を現実にやってしまう。その後、ほかのプロレスラーも夢の闘いはありましたが、正直超えていない気がします。最初にぶち上げた猪木さんのスケール感に圧倒されます。そのあと数十億の借金を背負い、それをちゃんと返済するなど、我々には想像がつかない次元です。僕は早めに父を亡くし、人生うまく行った人も行かなかった人も、あの太閤秀吉だってゴールは同じでみんな死ぬのに、生きるとはどういうことなのかと迷う時期がありました。だけど倫理観やルールに縛られて、がんじがらめになっている世の中で、猪木さんは夢のような、もしかしたら地獄のような毎日を送っていた。とにかくアントニオ猪木という人は、普通の人よりも何倍も濃い日常を過ごしていたように思うんです。いずれ死ぬとわかっているんだから自由に生きたいけれど生きられない、それでも羽を広げて生きて行こうよと。苦悩も、喜びも見せて、喜怒哀楽をお裾分けしてくれる、この人の言葉に感動しないことはないですよね。行動力がズバ抜けているのだから」と、猪木が発する言葉だからこそだと強調。


伯山は、ずば抜けた行動力とスケールが猪木の言葉の持つパワーの理由だと分析する
伯山は、ずば抜けた行動力とスケールが猪木の言葉の持つパワーの理由だと分析する[c]2023「アントニオ猪木をさがして」製作委員会 写真:原 悦生

「猪木さんが仮に高倉健さんのように口下手だったとしても、人気が出たと思います。むしろ一言一言にみんな耳をそば立てて聞こうというキャラクターになっていたでしょう。圧倒的な行動力、もちろんそこには演出家として生みだしたものもあるだろうけれど、いろんな面で超一流だったと思います」と、猪木の言葉の持つパワーの理由を分析した。