デザイナー大島依提亜×写真家木村和平が振り返る!今泉力哉監督最新作『アンダーカレント』での世界観の作り方

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デザイナー大島依提亜×写真家木村和平が振り返る!今泉力哉監督最新作『アンダーカレント』での世界観の作り方

映画『アンダーカレント』(10月6日公開)のポスタービジュアルを手がけたデザイナーの大島依提亜と、ポスター撮影を担当した写真家の木村和平による初の対談イベントが10月2日、東京・下北沢の本屋B&Bにて開催され、本作の世界観をどのような想いで表現したのか、制作秘話などを語った。

【写真を見る】パンフレットのデザインに触れながら、自身の仕事観なども語った大島依提亜と木村和平
【写真を見る】パンフレットのデザインに触れながら、自身の仕事観なども語った大島依提亜と木村和平

豊田徹也の長編漫画「アンダーカレント」を、『愛がなんだ』(19)、『窓辺にて』(22)の今泉力哉が監督を務め、主演に真木よう子を迎え実写映画化。心の奥底に閉じ込めた気持ちを大切に描く、自分自身ととことん向きあう究極のヒューマンドラマで、真木は突然夫が失踪してしまった銭湯「月乃湯」の女主人、かなえを演じている。共演は井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、音楽は細野晴臣が担当している。

写真家の木村和平
写真家の木村和平

もともと原作が大好きだという木村は、完成した映像を観るまでは「この漫画をどう(映画に)するのか」という思いがあったそうだが、「絶妙な着地をしているなと思いました。シンプルに好きな構造の映画です」と原作ファンも大満足の仕上がりだと話した。今泉作品の大ファンだという大島は、主題に重みがある本作を今泉監督が独特の軽さで表現していると解説。「重いものを水のなかに入れて、その浮力でちょっと軽くする、そんな絶妙さがあります。原作の重さがありつつ、どこか軽やかです」との大島の映画の感想に木村は「重いものを重いまま⾒せるのではなく、軽さを取り⼊れるのはすごく重要」と強調。「悲しいお話を『悲しいです』って作るのではなく、うまい具合に軽くしているように感じます」と木村が付け加えると、大島が「今泉監督にしかできないです」と今泉監督の手法を大絶賛した。

デザイナーの大島依提亜
デザイナーの大島依提亜

ポスタービジュアルを手がけた2人は、それぞれの立場から今泉作品の制作裏話を明かしていく。「順撮りではないので、いま撮っているシーンがどこに入ってくるのかは正直、現場ではイメージしきれません。撮っているときのことを忘れることもあるし、完成版を観て思い出すこともあります」と笑顔を見せた木村。大島が「今泉監督はエモーションをそのまま出すという表現ではなく、演者さんとの動きで作っていくタイプ。なので、完成しないと(どのような映像になるのか)分からない」と話すと木村は「だから、現場に入っている時にどういうテンションで(自分がスチールを)撮ればいいのか分かりません」とコメント。

しかし、これまで何度もスチールを担当してきた木村は「監督とはこういうふうに撮ってほしいという具体的な話はほとんどしません。でも、本編と映像とかけ離れた感じには意外となってなくて。最初の頃は揉めたこともあったし、お互いが納得する仕事が出来ているわけではなかったと思います」とニヤリとしながらも正直な気持ちを話した木村は「いまは、シンパシーを持ってできている気がします。なんとなくどこをどう見せたいのかが肌感覚で分かるので」と、タッグを重ねてきたからこその今泉監督とのいまの関係性に触れた。

今泉監督作が大好きなのだそう
今泉監督作が大好きなのだそう

今作のロケハンを振り返り、「あまり会話はしなかった」と明かす。ロケハンの時は、お互いに撮るもの、その対象物を見ていることが多いため、顔を見て話すことも深い話をすることもないとしたが「しゃべらずとも絶対に共有できる感覚はあった」と強調した大島に対し「そういう感覚は当たります」と言い切った木村。大島も「当たるよね」と笑顔を浮かべていた。実は、水中撮影をしたことがなかったという木村はプールも海も苦手だという。「そもそも水中で撮るスキルがない。だけど、真木さんは体⼒的にもキツイであろう中で⼊り続けているのに、⾃分だけプールの縁から撮っても良いものが撮れるわけないので、やるしかないという気持ちでした。お風呂で練習もしたけれど、深さも距離も違ったので…」と木村が苦笑いする一方で、大島は「ロケハンの時もプールが嫌い、海が嫌いってすごく嫌そうにしていたのを覚えてます」と大笑いしていた。

出来上がったばかりのパンフレットを手に取りトーク
出来上がったばかりのパンフレットを手に取りトーク

イベントでは出来上がったばかりという『アンダーカレント』の劇場用パンフレットの“実物”を手に、それぞれの仕事観に触れながらトークを展開する場面も。デザインやスチールを依頼された際に自分の色を出すのかという話題では、大島は「最初から全くない」と話し、木村は「以前はあった」と明かす。もともと映画の世界、監督を目指したこともあったという大島は「デザインに行ったのは、逃げて逃げての結果。逃げた先だから、せめて好きだった映画に関わりたいという気持ちなんです。僕にとって映画は宗教のようなもの。映画に貢ぐことが大事で、自分のクリエイティブを発揮させるのが目的ではありません。でもそこの追い込みが度を越しているから独自性なんて言われることもあるのかな」と映画に携わることへの想いを告白。

大島の考え方に納得しながらも「謙虚ですね」と反応した木村は「僕は毎回葛藤があります。どこまで自分がその仕事に寄り添うかと考えながらも、爪痕を残したいという気持ちもあるので」と解説。しかし最近はその気持ちにも変化が出てきたそうで、「仕事でも自分の作品だと誰が見ても分かるようになりたい、パッと見て『木村和平の写真だ!』とわかるようなものをという気持ちだったけれど、最近は変わってきている気がします」と微笑み、「大島さんとやるときには『好きにしてください』という気持ち」とした木村は「以前だったらトレペ嫌だったかも…」と『アンダーカレント』のパンフレットの表紙を触りながらニヤニヤ。トレーシングペーパーを取り入れた大島のデザインは気に入っているそうで、「色校の時からトレペの作用が想像できたし、もちろんOKですって思っていました。繊細なことをやられてるなって」との木村の言葉に大島は「いまでよかった(笑)」と大笑いしながら、ホッとした表情を見せていた。


フォトセッションは「ちょっと恥ずかしい」と照れていた
フォトセッションは「ちょっと恥ずかしい」と照れていた

本作のおすすめポイントについて「観て感じてほしい」と声を揃えた2人。木村は「映画は観てもらってそれぞれが好きに受け取るのが良いと思いますが、僕的には細野さんの音楽がとても素晴らしいといいたいです」とアピール。大島は「いままでの今泉作品とは違うところがあるし、繋がっている部分もあります。そのあたりの面白さを楽しいでほしいし、原作も読んでほしいです」と呼びかけた。

取材・文/タナカシノブ

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