二宮和也、純愛映画『アナログ』で「役の広がりや深みを奇跡的に構築できた」
ビートたけしの同名小説を、主演に二宮和也、ヒロインに波瑠を迎えて映画化した『アナログ』(公開中)。本作は、二宮演じる主人公の悟と、波瑠演じる携帯を持たない女性、みゆきが、かけがえのない時間を紡いでいく、実に純度の高いラブストーリーだ。大ヒットドラマ「VIVANT」や、今季の月9ドラマ「ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜」などの話題作が続く二宮だが、珠玉の純愛物語に仕上がった本作では、多くの観客から涙をしぼりとりそうだ。
手作り模型や手描きのイラストにこだわるデザイナーの悟が、喫茶店「ピアノ」で偶然出会った女性みゆきに心惹かれる。その後、同喫茶店で再会したあと、悟はみゆきの連絡先を尋ねるが、なぜか彼女は携帯を持っていなかった。そこで2人は「毎週木曜日に、同じ場所で会う」という約束をし、週に1度のデートを重ねていく。そして遂に悟は、みゆきの素性を知らぬまま、プロポーズをする決意をするが、その日以降、みゆきと会えなくなってしまう。果たして彼女が隠していた過去、そして秘められた想いとは。
二宮が現代劇のラブストーリーで主演を務めるというのは、かなり珍しいことだが、二宮自身も「こういった毛色の作品には出ていなかったので、自分自身も新鮮でした」と話す。
「僕はどちらかというと、まだ見たことがなかったり、そこまでメジャーではない表現を大切にするタイプですが、恋愛ものはいわゆる“お約束事”のシーンがないと、観ている人が物足りなく感じる部分もあるだろうなと思って。作品全体の形を見て、『ここでは(新しい表現を)やってもいいのかな』と、いい塩梅を探りながら演じていく作業が多かったです」。
タイトルが物語るように、『アナログ』ならではの温かみを感じる本作。コロナ禍を経て、実際に会いたい人と会えることの至福感をかみしめているいまだからこそ、その尊さをより実感させられる。また、「連絡を自由に取り合えない」という縛りが、いい意味で純愛を効果的に盛り上げていく。
「手作業の温もりが好きな悟が、自分のなかで妙にリンクし、役の広がりや深みを奇跡的に構築できました」
劇中で、2人は様々なシチュエーションでのデートを楽しんでいくが、二宮は「そば打ちデートは衝撃的でした」と言う。
「台本のト書きはほんの少しだったけれど、撮影スケジュールは1時間半あって、そば粉をまとめてこねて打ってと、最初から最後まで全部やっている間、ずーっとカメラを回していたんですよ。みんなで『絶対に使わないよね?』と言いながら演じていました(笑)。あのシーンではカメラを2台回していたんですが、そのうち1台の(録画用)カードが途中で差し替えられて。映画を撮っていてあの光景を見たのは初めてでした!」。
監督のタカハタ秀太とは、2015年放送のドラマ「赤めだか」でも組んでいるが、タカハタ監督について二宮は「僕は現場で『こうしよう』と話をすることが多いのですが、それに対応していただけるというか、俳優を信頼して自由にやらせてくれる監督だと思います。それと、自分のなかに明確なイメージがある人。自分たちの表現を一度やらせてくれて、そのうえで『こういうのもちょっとほしいな』と、回りくどくなく言ってくれるから、出演者たちも監督が求めているところに近付きたくなるんですよね」とかなりの信頼を寄せている。
だからこそ、このそば打ちのシーンも楽しめたと言う二宮。
「タカハタさんは、俳優の芝居をちゃんと信頼しているけれど、長く演じている最中にふと出るゆるみを楽しむ人なんです。そば打ちのシーンは、波瑠ちゃん演じるみゆきのほうが上手で、僕が演じる悟がうまくいかずにテヘーッとなるパターンかな?と思ったら、実際は僕がめちゃくちゃ上手くて(笑)。そういうのも楽しかったな」と笑顔で語る。
さらに「本編では描かれないけれど、あの瞬間にキャラクターたちのパーソナルななにかが生まれた気がして。模型を作っているとか、手作業の温もりが好きな悟が、自分のなかで妙にリンクしました。そういう感じで、役の広がりや深みを奇跡的に構築できました」と、本編で描かれている、なにかを手作りするシーンから、いろいろなインスピレーションを得られたと明かす。
また、ドラマ「優しい時間」で陶芸職人の見習いの役をやったことが、そば打ちで生地を練るシーンにも活かされたと言う二宮。好きな“アナログ”のものについては「お皿かな」と応え、同ドラマでのエピソードを話してくれた。
「その役を演じた時、陶芸の先生に言われたことが印象に残っているんです。『俺にしか作れない皿はこれだ!と思う。1枚は誰でも作れる。でもみんなが、とりあえずこれでいいか、と買うような皿を作れるようになってからが一人前』という言葉で、それは芝居にも通ずるものがあるなと思いました。大見得を切って発狂して泣いて、人を刺して、といった芝居は誰にでもできるけど、普通に座って食事をしたり話したり、ただ泣いている人に寄り添ったり、一見地味な芝居もできるようにならないといけない。そういった想いもあって、この作品で演じた悟の、模型を作ってアナログで3Dにすると見えてくるものがあるという考えにはすごく共感できました」。
本作で二宮が魅せる表情がとても深みを帯びているのは、そうやっていろいろな現場で積見重ねた経験が活かされているからかもしれない。日を追って高まっていくみゆきへの愛情もちゃんとグラデーションがきいていて、とても繊細に表現されている。
原作者であるビートたけしのロマンチシズムが、そこはかと漂い、涙腺を揺さぶってくる『アナログ』。そこを絵空事ではなく、地に足のついた恋愛映画に着地させられたのは、二宮と波瑠の力が大きかったのではないだろうか。とても丁寧に綴られた“ある愛の形”を、ぜひ大スクリーンで見届けていただきたい。
文/山崎伸子
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