観た後に間違いなくサントラが欲しくなる『キリエのうた』など、週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、アイナ・ジ・エンドが映画初主演を果たした岩井俊二監督最新作、ガイ・リッチー&ジェイソン・ステイサムのタッグが贈る痛快スパイ・アクション、江戸文化の裏の華であった春画の魅力に囚われた人々を描く偏愛コメディの、キャストたちの演技が光る3本。
痛みを抱えた人たちの決して穏やかではないドラマ…『キリエのうた』(公開中)
歌うことでしか“声”が出せないストリートミュージャンのキリエ。伝説的グループ「BiSH」の元メンバー、アイナ・ジ・エンドがそんな新世代のミューズに命を吹き込んだ岩井俊二監督の最新作は、岩井監督ゆかりの地である石巻、大阪、帯広、東京を舞台に、キリエを中心とした4人の男女の13年間にわたる出逢いと別れを描いた壮大な映像詩だ。
そこに映しだされるのは、殺伐としていて生きづらい現代を彷徨い続け、必死に叫び続ける危うい魂たち。ギスギスした描写もあるし、岩井監督の作品特有の風変わりな登場人物や思いがけないキャストが観る者の心をざわつかせ、現実の世界へと引き戻したりもする。それこそ、実生活で使われるワードも普通に登場し、フィクションと現実の境界を当たり前のように破壊。痛みを抱えた人たちの決して穏やかではないドラマをさらに揺れ動かすのだけれど、不思議なのは、『リリイ・シュシュのすべて』(01)を始めとしたこれまでの岩井作品と同様、その世界が決してイヤじゃないことだ。それどころか、キリエたちがどんどん愛おしくなって、いつまでも留まっていたくなる。もちろん、そこではアイナ・ジ・エイドが歌う楽曲の数々や懐かしい名曲のカバーが大きく影響していて、いつの間にか登場人物たちに共鳴していたりするのだ。その時間の流れが心地いい。それはヒリヒリとしながらも、かけがえのない感情と向き合う178分。観た後に、間違いなくサントラが欲しくなる。(映画ライター・イソガイマサト)
お遊びも楽しい愛すべき作品…『オペレーション・フォーチュン』(公開中)
ジェイソン・ステイサム主演、ガイ・リッチー監督のスパイアクション。MI6御用達のフリーランスのエージェント、フォーチュンは正体不明の"ハンドル"なるブツを回収するため世界各地を飛びまわる。いまやトップスターのステイサムと、メジャー大作を中心に活躍しているリッチー。5度目のコンビ作である本作は、彼らの原点回帰というべきクセありまくりのアクションコメディだ。
かつて名作スパイドラマ「ナポレオン・ソロ」の映画化『コードネーム U.N.C.L.E.』(15)を手がけたリッチーだが、本作の趣は007+M:I。超贅沢好きなフォーチュンが、チームを率いて“ハンドル“を売りさばこうとする武器商人を相手に潜入捜査を開始する。チームは下ネタを口にしながら現れた挙動不審なミス・フィデル(オーブリー・プラザ)と、礼儀正しいが覇気のない青年JJ(バグジー・マローン)で、「大丈夫なのか?」と不安をかきたてられる3人組。そんな彼らがミッションのさなか次々に高いポテンシャルを発揮していく痛快さがたまらない。ミッションに巻き込まれる人気スター役のジョシュ・ハートネット、武器商人を演じたヒュー・グラントのスリリングなだまし合いも見ごたえあり。リッチーらしい変幻自在なカメラワークやカッティングなど、トリッキーな画作りも健在だ。リッチーが心酔する『明日に向って撃て!』(70)ネタを盛り込むなど、お遊びも楽しい愛すべき作品である。(映画ライター・神武団四郎)
内野聖陽が実に艶っぽく、魅力的に演じる…『春画先生』(公開中)
世捨て人のように、春画に没頭し、周りから“春画先生“と呼ばれる変わり者の研究者、芳賀一郎。ストイックなまでに自分を追い込み、自分に恋心を抱くヒロイン、弓子の気持ちを翻弄しながら、放置プレイ。Sであり、Mであり、究極の変態である芳賀を内野聖陽が実に艶っぽく、魅力的に演じる。「きのう何食べた?」シリーズのケンジさんで知られるように、コミック原作の軽妙なキャラクターに持ち前の重厚な演技力が生きる内野。
無修正の浮世絵春画描写は日本映画史上初。怪しげで隠微で、敷居の高そうな印象もある春画の世界だが、内野ならではの春画先生の手ほどきにより、弓子と一緒に気付けば、するすると引き込まれている。春画の知識も人生も恋愛も相手にならない勝負と知りながら、先生に食らいついて離れない弓子演じる北香那の一生懸命さ、フレッシュさが作品をほんのり明るくしているのも重要なポイント。(映画ライター・高山亜紀)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼