斬新なアイデア×上映時間94分。ロバート・ロドリゲス監督が語る、構想20年『ドミノ』の舞台裏
映画に“騙される”経験は、何度でも大歓迎。そんな人にオススメしたいのが『ドミノ』(10月27日公開)だ。監督は「スパイキッズ」や「シン・シティ」シリーズで知られる鬼才、ロバート・ロドリゲス。主演にベン・アフレックを迎えた本作は、行方不明になった娘を探す刑事のドラマなのだが、あまりにも不可解な状況が相次ぎ、予想もつかない真実へとたどりつく。この手の作品を観慣れた人でも“騙される”感覚に酔いしれるはずだ。
「催眠術にかかったように、なにが現実で、なにが虚構なのかをわからない気分にさせる映画を作ろうと思いました」
本作の構想に20年もの歳月を費やしたというロドリゲス。満を持しての作品を、どのように演出したのか。精神的に追い詰められている主人公ローク(アフレック)の運命や、何重にも仕掛けられたストーリーの秘密など、とにかく斬新なインパクトを与える『ドミノ』だが、いまから20年前、ロドリゲス監督に本作のきっかけを作ったのが、サスペンスの神様としても知られる、あの巨匠だったという。
「私はアルフレッド・ヒッチコックの大ファンなんです。ずっと観ていなかった『めまい』が20年前、レストア版のDVDになったので久々に観直したところ、改めて最高の映画だと確信しました。ヒッチコックの映画は『Vertigo(めまい)』、『Psycho(サイコ)』、『Spellbound(白い恐怖)』、『Frenzy(フレンジー)』など一つの単語でミステリアスな世界へ誘います。もし、ヒッチコックがあと10本新作を作ったら、どんなタイトルをつけただろうと想像し、『Hypnotic(催眠術という意味の本作の原題)』という言葉が浮かびました。『おもしろい響きだ。どんな意味なんだろう』と観客の想像力を刺激しそうじゃないですか?」
「催眠術」にはどんな意味を込めたのか。個人的な催眠術の思い出でもあるのだろうか?ロドリゲス監督は次のように説明する。「物語のなかで催眠術を効果的に利用するのではなく、催眠術にかかったように、なにが現実で、なにが虚構なのかをわからない気分にさせる映画を作ろうと思いました。よく考えれば、我々が作る映画は、催眠術のようなものでしょう。そこで起こっていることを観客に現実だと信じこませるわけですから。作り物だとわかっていながら、人々は笑ったり、感動したりしたいのです。いわば“騙される”のですが、その騙される感覚を映画のなかで複数のレベルで試したのが本作です。この物語には独自のルールが存在しますが、最後の最後まで最大の秘密は明かされません。そこが催眠術的なのです」。
そこから約10年かけて、プロットを構築していったというロドリゲス。観る者に催眠術をかけるうえで、重要なのが冒頭シーンなのは言うまでもない。セラピーらしきものを受けているロークに、銀行強盗が計画されているという通報が入る。現場へ向かった彼は怪しい男(ウィリアム・フィクナー)を発見。その男が狙っていたであろう貸金庫を先回りして開けると、そこには行方不明になっているロークの娘の写真が入っていた。いったいなにが起こっているのか…。このシークエンスに物語のカギが潜んでいるのは明らかだ。
「この冒頭は20年前に思いついたとおりの展開になっています。基本のアイデアとしては、一つのシークエンスを描き、それとは違う方向から見つめるルールを作る、ということ。その意味で冒頭のシークエンスは、ある視点による“自己完結型”です。そして同じシークエンスを別の視点から解説するシーンを用意しました。この別視点の部分には、新型コロナウイルスでの撮影延期による予算削減も絡んでいます。少ない予算による私たちの創意工夫が、逆におもしろい映像になったと思います」