斬新なアイデア×上映時間94分。ロバート・ロドリゲス監督が語る、構想20年『ドミノ』の舞台裏
「勢いで撮ったことで、作品に緊迫感と興奮がもたらされたのではないでしょうか」
コロナの影響も受け、限られた予算や制作スケジュールとなったことで、逆に監督としてのアイデアをフルに発揮することができ、そのプロセスを楽しんだと語るロドリゲス。こうした臨機応変のスタンスに、主演のアフレックの存在も大きく貢献したようだ。
「予算にふさわしいアイデアを思いつくこと。そこに私はちょっとした自信を持っています。例えば今回の場合、主人公がハサミを使うシーンに注目してください。編集とカメラによるトリックを使いましたが、そこにかかったのはわずか2ドルで、最高のシーンが完成しました(笑)。国境を越えた先のシーンなども私のスタジオで撮るなど、撮影規模はコンパクトなのにスケールを感じさせる努力もしています。私が1990年代にキャリアを始めたころは、1日に50ショット撮ったこともあります。ベン・アフレックも同時期に似たような経験をしており、今回もスケジュールの関係で俳優たちに『今日は予定の2倍撮ります』とお願いすると、彼は『あのころみたいで懐かしい』と喜んでやってくれました。でもそうやって勢いで撮ったことで、作品に緊迫感と興奮がもたらされたのではないでしょうか」。
そして、ロドリゲス作品のファンに向けたちょっとしたアピールも盛り込まれているという『ドミノ』。彼の初期の代表作『デスペラード』(95)にオマージュを捧げる会話(酒場でバーテンダーと小便に関して賭けをする話)もある。
「会話やシーン、映像などがどの作品の引用かを発見するのは、ポップカルチャーとしての映画の楽しみの一つですからね。誰がこの映画を作ったのか。そのヒントにもなるので、権利取得に問題のない、自分の作品から会話を引用してみました(笑)。こうした引用は、いま観てるものが現実ではなく、映画なんだと改めて示唆する効果もあると思います」。
こうしてロドリゲス曰く「催眠術にかかってマイケル・マンの映画の世界に入り込んだ感覚が味わえる」作品に結実した『ドミノ』だが、上映時間は94分。このところ2時間超えは当たり前、3時間近い長さのアクション作品が“常識”となったハリウッドにおいて、この短さは逆に新鮮だ。これは意識的なのだろうか?
「私も子どもたちとヒーロー映画を劇場へ観に行くようになって、彼らの目線で考えるようになりました。私が『おもしろかったね』と聞くと、13歳の息子はちょっと疲れた感じになったりしますし、2時間、3時間となると機嫌が悪くなったりもします。最後にものすごくおもしろいアクションが用意されるにしても、多くの作り手は最終目的地までの時間をかけすぎている気が…。もちろん3時間なのに1時間くらいに感じるすばらしい映画もあります。でも私個人は、やはりスピーディな展開が好きなので、次の『スパイキッズ』新作も90分程度に収めています。短ければ観直すのも簡単ですしね。たしかに一つのストーリーを伝えるうえで、10話のシリーズものを観るよりは、2時間半の映画のほうが効率的ですし、作品の長さは相対的で、人それぞれですから、上映時間の是非は難しいところです」。
このように「スパイキッズ」新作も待機するロバート・ロドリゲス。人気シリーズやIP(知的財産)作品が増え続けるハリウッドで、「今回の『ドミノ』のようなオリジナルの作品が実現できることは、とてもエキサイティングだった」と振り返る。斬新なアイデアを、息もつかせぬ勢いで見せつける彼の手腕と共に、映画に“騙される”喜びをぜひ味わってほしい。
取材・文/斉藤博昭