マーティン・スコセッシ監督が語る、最新作の脚本が大きく変わった理由「丹念に描くことで“人間”があぶり出される」
「数々の名監督たちが撮ってきたジャンルに、どう挑めばいいのかわからなかった」
多面的、重層的なキャラクターであるキング役のデ・ニーロと、彼に従わざるを得ない甥アーネストを演じるディカプリオ。本作のもう一つの見どころは、スコセッシ監督と縁の深いこの演技派2人の顔合わせにもある。
「2人が本格的に共演したのは『ボーイズ・ライフ』以来でしょうか。実はその作品でレオと初めて仕事をしたロバートは私にこう言ったんです。『いつか(レオを)起用するといいよ』ってね。それにしても、彼らが共演する私の映画が“ウェスタン”になるとは予想すらしていませんでした。本当に運よく、すべてが上手く運んだんです」。
実はスコセッシ、本作を選んだもう一つの理由に長年抱いていたウェスタンへの憧れがあったという。
「原作で最初に惹かれたのは事件の背景でした。なぜならウェスタンの世界だったから。私はずっと、いわゆるアメリカン・ウェスタンへの憧れがありました。いつか撮りたいと思ってはいたものの、数々の名監督たちが撮ってきたこのとてつもないジャンルに、どう挑めばいいのか、まるでわからなかったんです。そして、そういうストーリーに出会えることもないだろうと思っていました。ところが、こうやってそのチャンスがやってきました。私は心理的なものより伝統的なアメリカン・ウェスタンが好きだったが、それを繰り返すことや永続させることに映画的な意義はないということも知っています。大切なのは、そういう過去の作品からインスピレーションを受けつつ進化することにあるんです」。
80歳を迎えても進化することの重要性を解くスコセッシ監督。当人も衰えは一切感じさせず、相変わらずの早口で熱い想いを語ってくれる。その元気の秘訣を尋ねてみたらこんな答えを返してくれた。
「やっぱり“好奇心”だと思いますね。古い作家や新しい作家からも刺激を受け、昔の映画や新しい映画からの発見も数えきれないほど。もちろん、身体が疲れることもあるけれど、私は常に新しいアイデアや撮りたい企画を抱えて忙しくしています。実際、フィクションを撮るのと並行して、ドキュメンタリーを手掛けることだってあります。今回も同時進行で、ニューヨーク・ドールズ(2011年に解散したニューヨーク出身の伝説的ロックバンド)のデビッド・ヨハンセンについてのドキュメンタリー『Personality Crisis:One Night Only』を撮っていたくらいですから(笑)」。
ザ・バンドの解散コンサートを収めた『ラスト・ワルツ』(78)や、ローリンス・ストーンズを追った『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』(08)などを撮るくらい音楽にも精通しているのだから、その好奇心はあらゆるジャンルに及んでいるということだろう。
また、スコセッシ監督は、本作の原作者、デヴィッド・グランと意気投合したのか、彼の最新作のノンフィクション、18世紀のイギリス海軍船の海難事故の真実に肉薄した「The Wager: A Tale of Shipwreck, Mutiny and Murder」の映画化を、ディカプリオ主演で企画しているという。まさに引退などとは無縁の忙しさ。次回作にお目にかかるのも時間の問題と言っておこう。
取材・文/渡辺麻紀
※記事初出時、人名表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。