『つんドル』穐山茉由監督×漫画家・鳥飼茜の特別対談!「この質問、訊かれたらすごく嫌ですよね(笑)」 - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『つんドル』穐山茉由監督×漫画家・鳥飼茜の特別対談!「この質問、訊かれたらすごく嫌ですよね(笑)」

インタビュー

『つんドル』穐山茉由監督×漫画家・鳥飼茜の特別対談!「この質問、訊かれたらすごく嫌ですよね(笑)」

いったん始めたら、なにがあっても、最後まで走り続けないといけない(鳥飼)

「『やってみたい』と思うことがある限り、漫画を描き続けられる気がする」という鳥飼
「『やってみたい』と思うことがある限り、漫画を描き続けられる気がする」という鳥飼撮影/杉映貴子

鳥飼「日々の暮らしのなかで、どうしても溜まってしまう澱や腑に落ちなかった不満の種のようなものを、どうにか腹落ちさせるための手段が私にとっての漫画であって。自分で自分を飽きさせないために、常に自分の“手癖”を超えるべく、試行錯誤しているんです」

穐山「“手癖を超える”というのは、具体的にはどういうことですか?」

鳥飼「要は、漫画って、作画ができるかどうかは別として、ある程度読んでいれば誰でも作れるものなんですよ。主人公はこういう気持ちでこう行動して、その結果こんな効果を得られて、こんな成長を遂げた、とか。その過程でどんな発見をしたかとか。型があるので、それさえ理解すれば簡単に作れるし、慣れてきたら、いくらでも小手先でできてしまうものなんです。でも私は、そういった自分の“手癖”を超えて、自分が予想もしてなかったようなキャラクターの感情の動き方を、構図や表情でどう見せていくかを追求したい。これは、穐山監督が『他者と関わることで自分の想像を超えたい』とおっしゃっているのと、通じるような気がします」

穐山「映画制作においては、初めてのスタッフと一緒にやってみたり、それまでトライしてこなかった題材に取り組んでみたりとマンネリを打ち破る方法はいくつかあると思うのですが、果たして自分のなかで映画を撮り始めた頃と同じようなモチベーションを、ずっとこのまま保ち続けられるのか、という点では、ふと不安になることもあるんですよね。経験を重ねるにつれて、理解できるようになることもある一方で、映画を撮り始めた初期より自分のなかで発見や驚きが少なくなってきているのも確かなので。他の作り手の方たちは、そういった問題と日々どのように向き合っているのか知りたいなとも思っていて」

鳥飼「私にとって漫画は自分の“分身”でありながら、お金をいただく“仕事”でもあるので、自分が完全に満足するものがつくれたら決してアガりではないんです。時には人間の負の感情に向き合う気力がない日もあるし、『それを描いたところで世界は何も変わらない』という絶望感もある。でも『やってみたい』と思うことがある限り、私は漫画を描き続けられる気がしているのですが、穐山監督の場合はどうですか?『表現したい!』という渇望感のようなものが、まだまだ尽きることなく、湧き上がってくる感じですか?」

仕事なし、男なし、貯金なしの崖っぷちアラサーの安希子
仕事なし、男なし、貯金なしの崖っぷちアラサーの安希子[c]2023 映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会

穐山「常にネタをストックしているタイプの作り手もいらっしゃるとは思うのですが、私の場合は『とにかく数をたくさん撮りたい』というわけでもないので、声を掛けていただいた時に自分自身が『撮りたい!』と思える題材がそのタイミングでちゃんと見つかって、その気持ちを最後までしっかりと育んでいけるかどうかが肝になるんじゃないかと思っているんです。映像制作においては、“仕事だから”と完全に割り切れるタイプではない気がするので、お金をいただいて請け負う“仕事”と、自分なりの表現を追求する“作品”とのバランスの取り方も考えつつ、その都度新しい可能性をいろいろ試しながら、自分なりの道を模索していきたいです。といいながら、映画の場合は、企画してから完成するまで数年単位の時間と莫大な製作費かかるので、『じゃあ、これで!』と即決するというわけにもいかなくて…。きっと漫画連載を始める際にも、同じ面があると思うのですが」

鳥飼「いったん始めたら、なにがあっても、最後まで走り続けないといけないですからね。私の場合、『これ実話なんですか?』と訊かれることが多いのですが、そういうことではないんです。私にとって漫画は、“仕事”であり、“自分そのもの”というか。漫画のために何かしんどいことを見つけるということはまったくなくて。『いまの自分の状態を抽象化したり、一般化したらこうなりました』というものでしかないんです。だから、漫画に描いたことが事実かどうかは別として、そこに描かれた登場人物の感情や思いについては、かなりリアルなものであると言えるとは思います。

世の中には『身を削って描いてます』というタイプの作り手もいますが、私自身は真逆というか、漫画を描くために実生活をおろそかにすることは絶対なくて『そのために家族や周囲の人がどれだけ我慢を重ねていると思ってるの?』と突っ込みたくなってしまう(笑)。“仕事”なので漫画を描くときはもちろん真剣に取り組みますが、私のなかではあくまで現実世界の人間が優先で。目の前の人やことと一生懸命向き合って、それでも足りないものを漫画に描いて。それで気付いたことを、現実世界に還元する。私の日々は、そういったことの繰り返しのような気がします」

穐山「私も、自分でオリジナルの脚本を書いた時は『これって、監督ご本人ですよね?』と言われたりもするんですが、『いや、違います』って、ずっと否定し続けてきたんです」

鳥飼「わかります(笑)。『ここに出てくるこの人は、あなた自身のことですよね?』とか『これ、実体験ですよね?』って聞かれるのは、すごく嫌ですよね? 私自身も『いえ、違います』と反論したくなるのに、なぜか全部まとめると“作品=自分の分身”なんですよ」

穐山「そうなんですよね。自分としては、それぞれのキャラクターごとにちゃんと役割を与えているし、キャラクターが自ら選んで動いているつもりだから、決して自分ではないはずなのに、出来上がると自分になっているという、不思議な現象が起きるんです(笑)」

鳥飼「単なるコマと言ったらキャラクターに失礼だけど(笑)、意志を持った他人みたいな感覚なんです。なのに、それを全部まとめると自分になるって、すごくおもしろいですよね」

穐山「不思議ですよね(笑)。でもきっと、漫画でも映画でも、人が生み出す作品の多くはそうなんじゃないかなと思いますね」

映画と漫画、ジャンルは違っても共感するところが多い2人
映画と漫画、ジャンルは違っても共感するところが多い2人撮影/杉映貴子


取材・文/渡邊玲子

■鳥飼茜
大阪府出身。2004年に漫画家デビュー。主な作品は『おんなの家』『先生の白い嘘』『サターンリターン』ほか。仕事や育児の悩みをつづった『漫画みたいな恋ください』などエッセイも執筆している。


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