チャン・イーモウ監督『満江紅』ジャパンプレミアの反応に笑顔!「東京国際映画祭には何度でも足を運びたい」
今年1月に中国で公開され大ヒットを記録したチャン・イーモウ監督『満江紅(マンジャンホン)』が10月24日、開催中の東京国際映画祭のガラ・セレクション部門でジャパンプレミア上映され、Q&Aにイーモウ監督が登場した。
23日のオープニングセレモニーにて、特別功労賞を受賞したイーモウ監督は本作の制作を振り返り、「『紅夢』の続編を撮るつもりで、6年前に映画の舞台となった山西省に屋敷を建てていました。でも、脚本がなかなかうまく進まず…。そんな時、現地の政府から『なにか映画を撮らないと(屋敷が)もったいない』と言われて、それなら撮ってみようかなと着手しました」と、現地政府に背中を押され、映画美術ありきで始まったプロジェクトだったと笑顔を見せる。その時点で続編を予定していた『紅夢』(91)とは違う内容の映画にしようと考えていたそうで、脚本作りを開始してから4年を費やしたと明かした。
Q&Aコーナーで「どうしたらそんなにおもしろい映画を作れるのか」との質問に「映画作りはとても難しいもの」と回答したイーモウ監督。特に本作は数時間のストーリーに、様々な要素が入っているとし「物語は逆転を繰り返す展開。しかもどこかコミカルな部分もあります。ローカルな笑いを中国以外の方に理解していただくのは難しいこと。でも、今日のみなさんの反応から、ユーモラスな部分もちゃんと伝わったのかなと思っています」と安堵の様子。様々な要素が盛り込まれた映画が思うように出来上がったのは「中国でも最高の役者のみなさんが揃ってくれたから」と、出演者への敬意と感謝を口にする場面もあった。
本作は非業の死を遂げた南宋の武将、岳飛(がくひ)が残した詩「満江紅」をモチーフに、南宋朝廷内部に渦巻く謀略を壮大なスケールで描いた歴史劇。作品を観て「世界史の勉強を思いだした」と話したファンの言葉に「歴史についてはたくさんの歴史学者が研究しています。私が描きたかったのは、いまの我々の感覚、庶民の感覚で見た岳飛、秦檜(しんかい)はどういう人なのか、というアイデアから出発した作品です」と説明。また、本作を描く上でおもしろいと感じたポイントがあると微笑み、「岳飛の書いた歌は中国では老若男女、誰もが知っているものです。岳飛が書いた曲ではあるけれど、それがどのように世の中に伝わっていったのかは諸説あります。そういう余白がクリエイターに物語を作る余白を与えてくれたと感じています」と、自身が作品を作るうえで惹かれた部分を語った。
続けて映画制作の手法について問われると「とにかく話す、話し合うことです!」と即答したイーモウ監督。「もともととても寡黙な人間で、口数が少なかった私が、監督になってからはとてもおしゃべりになりました」と照れ笑い。映画を撮りたいと思ったら、まずは脚本家や脚本チームととにかく話をするそうで、「延々と話します。長い時には何年も、短くても何か月かはお互いの考えを喋り続けて(アイデアを)練っていく。そんな形で作り上げていきます」と解説したイーモウ監督は、「撮影に入っても、役者さんととにかくたくさん話します」と、自身の映画作りには話し合いを重ねることがとても大事であることを強調していた。
「日本にはたくさんの知人もいるし、みなさんのように映画を楽しみ、理解してくれる人がたくさんいます」と話したイーモウ監督は、「これからも可能な限り、東京国際映画祭には足を運びたいです。たくさんすてきな映画も観たいし、私も良い作品を作り、それを携えてやって来たいです!」と今後も同映画祭への参加の意思があることを伝えると、会場は大きな拍手と歓声に包まれた。拍手が鳴り止まないなか、ステージを後にするイーモウ監督のもとにはたくさんの観客が押し寄せたが、監督は写真撮影やサインに応じファンを喜ばせていた。
第36回東京国際映画祭は、10月23日~11月1日(水)の10日間にわたり、シネスイッチ銀座、丸の内TOEI、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューリックホール東京などで開催中。
取材・文/タナカシノブ