いま春画が熱い!無修正での浮世絵春画描写が実現した『春画先生』で注目された春画の魅力とは?
江戸文化で“笑い絵”とも言われた春画の奥深い魅力を説く変わり者の春画研究者と、しっかり者の弟子という師弟コンビが繰り広げる異色の偏愛コメディ映画『春画先生』(公開中)。主演に内野聖陽、ヒロインに北香那を迎え、『月光の囁き』(99)や『害虫』(02)の塩田明彦が監督、脚本を手掛けた本作が公開され、いま春画に熱い視線が向けられている。そこで今回、春画の魅力を深掘りする。
春画とは、肉筆や木版画によって人間の性的な交わりを描いた画のことで、平安時代から江戸時代に木版技術の発達により全盛を迎えた。喜多川歌麿、葛飾北斎など、著名な浮世絵師のほとんどが手掛けていた春画は、江戸幕府の禁制品とされ、表に出なかったからこそ、自由な創作が可能に。やがて“芸術”の域に達し、庶民から大名までを虜にする江戸時代のエンタテインメントとなった。
これまでその取扱いは日本映画でもタブーとされ、性器部分の描写は映倫審査でボカし加工が必要だったが、本作は、映倫の区分「R15+」指定を受け、全国公開される商業映画として、日本映画史上初、無修正での浮世絵春画描写が実現した。そして、同じ春画を扱ったドキュメンタリー映画『春の画』が11月24日(金)より公開、さらに銀座のギャラリーアートハウスでは「銀座の小さな春画展」が開催中で、今年は春画が再ブームになりつつある。
そこで、この『春画先生』に登場する春画をいくつかご紹介。1つ目の春画は、喜多川歌麿による「歌まくら」。美人画、なかでも人物の上半身をクローズアップした“大首絵”で、一世を風靡した彼の代表作の1つと言える。映画の前半で、ヒロインの春野弓子(北香那)が、春画先生こと芳賀一郎(内野)から、春画のレクチャーを受け、次第に春画の世界にハマっていくが、まさにそのきっかけとなったのが「歌まくら」をはじめとする歌麿の作品群だった。
続いては、渓斎英泉による「古能手佳史話」。劇中、一郎が亡き妻のドレスを弓子に着てもらい、初めて参加した「春画とワインの夕べ」の会場に飾られている作品だ。一郎は弓子に対し、この画を見てどう感じるかと尋ねると、弓子は「不穏」「不安」を感じると伝え、2人の距離はぐっと近づくことに。作者の渓斎英泉は、オリジナリティにあふれた妖艶な美人画で人気を博す一方で、文筆家として戯曲や随筆も手掛けた。葛飾北斎に私淑し、春画において北斎から大きな影響を受けたと言われている。
最後に、葛飾北斎による「喜能会之故真通」の“蛸と海女”。物語の中盤で一郎、弓子と一郎の担当編集者である辻村(柄本佑)が訪れた「春画の鑑賞会」で登場。薄暗い部屋で語り部が詞書(ことばがき)を読み上げるなか、参加者たちは春画の鑑賞マナーに習い、ハンカチで口を抑え、回転レールを回ってくる“蛸と海女”を鑑賞。春画を鑑賞している途中に弓子がなにかに気づき、遅れて一郎、辻村もそれに気づいた目線の先には、一郎の亡き妻の双子の姉、一葉(安達祐実)が登場し物語は思わぬ展開へ…。
映画にはこうした春画が数多く登場し、男女の物語に大きく絡んでくる。春画を知っている人だけでなく、むしろ春画を詳しく知らない人こそ、この映画をきっかけに、春画の持つ奥深さや魅力的な世界観を、ぜひ堪能してみてはいかがだろうか。
文/山崎伸子