韓国スパイアクションの金字塔『シュリ』、再び日本のスクリーンへ!カン・ジェギュ監督「胸が熱くなる」

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韓国スパイアクションの金字塔『シュリ』、再び日本のスクリーンへ!カン・ジェギュ監督「胸が熱くなる」

2003年、「冬のソナタ」の大ヒットをきっかけに始まったとされている日本の韓流ブーム。その先駆けと言うべき映画『シュリ』(99)が、現在開催中の東京国際映画祭で23年ぶりに日本のスクリーンに蘇った。韓国における日本大衆文化開放25周年を記念して行われた今回の特別上映にはカン・ジェギュ監督も駆けつけ、トークイベントが行われた。

23年前の思い出に浸るカン・ジェギュ監督
23年前の思い出に浸るカン・ジェギュ監督[c]2023 TIFF

『シュリ』が初めて日本で披露されたのは、奇しくも1999年に開催された東京国際映画祭。主演のハン・ソッキュが来日し、渋谷公会堂で舞台挨拶付き上映が行われ、翌年2000年1月22日に公開されると18億円の興行収入を叩き出す大ヒットとなった。“韓国映画の歴史はシュリ公開前と以降に分かれる”と伝説のように語り継がれるほど、韓国映画の歴史において今も欠かすことのできない一本となっている。

複雑な南北関係を描いた『シュリ』制作秘話。北の人々との出会いに「新鮮な衝撃」

物語の舞台は1998年9月のソウル。2002年ワールドッカップ開催に向けて、朝鮮半島では南北統一チームが結成されるなど、融和ムードが漂っていた。国民が沸き立つ中、韓国情報院の要員ジョンウォン(ハン・ソッキュ)とその相棒ジャンギル(ソン・ガンホ)は、北から韓国へ潜入しているスナイパーのイ・バンヒを追跡していたが、要人暗殺を繰り返しつつ足取りのつかめない彼女に手をこまねいていた。ジョンウォンが恋人ミョンヒョン(キム・ユンジン)との結婚を1か月後に控えたある日、韓国が開発した液体爆弾CTXが、北の精鋭工作員ムヨン(チェ・ミンシク)率いる特殊部隊に強奪される。ジョンウォンは、彼らの標的が南北のサッカー交流試合が開催されるスタジアムだと突き止めるが、思わぬ事態が待っていた。

主役から脇役まで、現在韓国映画界を盛り立てている俳優がズラリと揃った『シュリ』
主役から脇役まで、現在韓国映画界を盛り立てている俳優がズラリと揃った『シュリ』[c]Samsung Electronics Co., Ltd.

今回の上映は、2019年に監督の監修の元行われたデジタルリマスター版だ。鮮烈な描写と迫力のある音響に、思わず前のめりになってスクリーンをみつめた124分だった。カン・ジェギュ監督も「時間が経つのは本当に早いですよね。もう23年も経ち、今日こうしてスクリーンで拝見して昔のことをたくさん思い出しました。胸が熱くなるような気持ちです」と感慨深げだ。そして改めて、『シュリ』の製作秘話を語ってくれた。

「(デビュー作の)『銀杏のベッド』(96)のシナリオを書いていたのが北京の大学の寄宿舎だったんですが、そこで北の留学生たちにお会いしたんです。私たちの国は分断国家なのでなかなか北の方々に会うという機会がなく、とても新鮮な衝撃でした。その経験で、私たちが住む南北分断の国家の中には、『シュリ』のように宝石のような、心が痛くなるような物語がたくさんあるのではないかと考えました。『銀杏のベッド』を制作している心の片隅にずっとそんな思いがあったので、次回作はぜひこのモチーフで撮りたいと思いました」。

【写真を見る】貴重な製作秘話も明かされ、ファンにはうれしいトークイベントだった
【写真を見る】貴重な製作秘話も明かされ、ファンにはうれしいトークイベントだった撮影/荒井 南

久々に鑑賞すると、『シュリ』はスケールの大きいスパイアクション映画でありながら、国家の分断によって引き裂かれた国民の怒りと悲しみがドラマの中に丁寧に盛り込まれている。その理由が、カン・ジェギュ監督の実体験にあったというのは納得の行くエピソードだ。

「トレンディではない」「“反共映画”では?」関係者の懸念を見事に払拭し大ヒットした『シュリ』

韓国での公開当時、『シュリ』はソウルだけで観客動員245万人(全国695万人)とう大記録を打ち立てた。しかし、制作をめぐっては否定的な見方もあった。そこには、南北関係にまつわる偏見がある。


「シナリオを書いたときに出資者や制作を担当してくださっている方たちからは、“面白そう”という意見の一方、やはり南北問題を扱う映画の制作は大変ではないかという見方が大きかったです。韓国映画やドラマの現場にいる者の立場からすると当時としてはトレンディではないというか、北がモチーフの映画を撮って果たして興行的に成功するのかという疑念はありました。軍事政権の頃に同様のテーマで映画が撮られていたことがあったんですが、それらは“反共映画”(共産主義などを敵視する思想で作られた映画)だと言われていました。そんな先入観を皆さん持っていたので、“ちょっと古臭いのでは?どうせ反共映画だろう?”という否定的な意見も多かったです。ところが結果は全く正反対でした。それから撮影当時、映画にも登場する国家情報院の方たちに協力を求めたところ、立場がかなり上の階級にいらっしゃる幹部の方も非常に撮影に協力的だったのが意外でした」。

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