「とても親しみを感じる」ジャ・ジャンクー監督がリメイクを考えた小津安二郎監督作品とは?
東京国際映画祭と国立映画アーカイブが連携し、今年生誕120年を迎える小津安二郎監督のサイレント時代からトーキー初期の16作品を英語字幕付き35ミリプリントで上映する「TIFF/NFAJ クラシックス 小津安二郎監督週間」で27日、『一人息子』(36)が上映。上映後のトークショーに来日中のジャ・ジャンクー監督が登壇し、小津映画の魅力について語った。
小津監督にとって最初のトーキー劇映画であり、松竹蒲田撮影所で撮られた最後の作品ともいわれている『一人息子』。信州で女手ひとつで一人息子の良助を育ててきたつね。苦しい生活のなかで息子の進学の資金を捻出して東京へと送りだす。それから13年経ち、良助のもとを訪ねに上京したつねは、そこで夜学の教師として働き、いつの間にか所帯を持って貧しい生活を送る良助の姿を目の当たりにすることとなる。
中国の“第六世代”を代表する監督の一人であるジャ・ジャンクー監督は「北京電影学院で映画を勉強していた時に『東京物語』や『晩春』などは観ましたが、『一人息子』を観たのは卒業してからのことです」と本作との出会いから振り返っていく。「この映画の主人公は長野から東京に出ていきますが、私は山西省から北京に出ていきました。田舎町で育った子ども時代がよく似ていて、とても親しみを感じる作品です」。
また劇中で描かれる日本の近代化というテーマについては、1990年代以降の中国の発展と重ね合わせながら論じていく。「日本が大きな変化を遂げる瞬間がこの映画のなかで描かれており、時代は違いますが、中国と共通する点を見出すことになりました。小津監督が描いたことは、日本だけではなく中国やほかの国々の、おおよそ人類の歩みそのものといえるでしょう。都市で暮らす息子は、変わりゆくさまざまなものが混在するなかでどのように自分の運命を切り開いていくか。それもこの映画の主題だと感じました」。
さらに「この映画のなかには印象深いシーンがたくさんあります」と語り、飯田蝶子が演じた母親が東京に出てきたシーンを紹介。「何本か出てくるゴミ焼却場の煙突。それはまさに、日本の工業化を物語っています。その一方で、田んぼもまだ残っているなど、産業の発展と農業社会の姿が合わさった空間が切り取られている。小津監督は伝統的な日本家屋を描くことに長けた監督ですが、こうした産業化していく姿というのも非常に上手に描いております」と小津監督の手腕に敬意を示した。
ジャ・ジャンクー監督はかつて、この『一人息子』を中国でリメイクしようと考えたことがあるという。「若かった時ですので、自分で監督しながら主演をしようかと考えていました。おそらく私の母も良い役者になってくれたと思います」と茶目っ気たっぷりに明かし、「人が都会に出ていろんなことを感じて帰る。その平凡で善良な生き方がいかにすばらしいか。また、息子の暮らしぶりに母親が失望し、激励もする姿。なにがあっても生き抜くことが大事だというメッセージ。この映画は中国の物語にしても通用します」と熱弁。
最後に小津監督とその作品群から受けた影響について「小津監督の描いた人間関係や彼らが直面する問題は、私が暮らしてきた社会にとても似ている。家庭環境や家族、個人の姿は、社会の変化に伴って変わっていく。小津監督の映画を観れば、我々が忘れてしまった人間関係というものをまた思い出させてくれるはずです」。
そして「これからのあるべき姿というものを、小津監督の映画は提示してくれます。それは非常に豊かな感動をもたらしてくれることでしょう。小津監督が映画言語として表現したさまざまな技術的なものは、これからもずっと残り続けるし、我々が学ぶべきものだと思います」と語っていた。
取材・文/久保田 和馬