第36回東京国際映画祭、『正欲』が観客賞&最優秀監督賞のダブル受賞!稲垣吾郎は同映画祭3度目の観客賞の快挙
第36回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが11月1日にTOHOシネマズ日比谷で開催され、各賞が発表された。コンペティション部門の最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞には、ペマ・ツェテン監督の『雪豹』が受賞。岸善幸監督の『正欲』(11月10日公開)は観客賞と最優秀監督賞のダブル受賞を果たした。今回の受賞で、稲垣吾郎主演作が同映画祭で観客賞を受賞したのは、『半世界』(19)、『窓辺にて』(22)に続いて3度目。同映画祭が開催されて以降、主演作が3度の観客賞を獲得するのは初という快挙を果たした。
東京国際映画祭は世界中から優れた映画が集まる、アジア最大級の映画の祭典。今年のコンペティション部門には、114の国と地域から1942本がエントリー。コンペティション部門の審査委員長は、『パリ、テキサス』(84)や『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(99)などで知られる巨匠ヴィム・ヴェンダース監督が務めた。ペマ・ツェテン監督『雪豹』(中国)は、今年5月に急逝したツェテン監督が遺した最後の作品の一つ。チベットや中央アジアに生息する雪豹を題材に、自然と人間の関係を問う作品だ。
審査員の満場一致で決定したことを明かしたヴェンダース監督は、「ペマ・ツェテン監督は、残念ながら5月に亡くなってしまった。まだとても若い、53歳でした。ゴージャスな風景と自然、ユーモラスな演技。そしてすばらしい動物を見せてくれたことを賞賛したい」とツェテン監督を称えつつ評価した。
4人で感激の面持ちでステージに上がった『雪豹』チーム。エグゼクティブプロデューサーのジョウ・ハオは、「残念なことに私たちの監督は、ここに来ることができませんでした。いただいた賞は監督が与えてくれたもの」としみじみ。「ペマ・ツェテン監督は、チベット語でチベットの映画を撮る開拓者でした。小説家でもあり、20年来にわたって小説を書き続けた。世界的にも監督の小説が受け入れられています。初期から晩年に至るまで各作品で作風を変え、チャレンジ精神旺盛に映画を撮っていました」と紹介し、「監督の精神、意志を継いで、これからも映画を作っていきたいと思います」とたくさんの感謝を伝えながら、宣言していた。俳優のション・ズーチーは涙を浮かべながら「感動でいっぱいです。監督に永遠に感謝したい」と心を込めていた。
観客賞を受賞したのは、朝井リョウによる同名小説を監督・岸善幸、脚本・港岳彦で映画化した『正欲』。家庭環境、性的指向、容姿などさまざまな背景を持つ人々の人生が、ある事件をきっかけに交差していく群像劇で、稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗ら豪華キャスト陣が新境地を開いていることでも話題だ。プレゼンターを務めたのは本年度のフェスティバル・ナビゲーターの安藤桃子監督。「観客賞は、映画祭の観客の皆様の心に最も湧き立った作品」と表現した安藤監督からトロフィーを受け取り、大きな笑顔を見せた岸監督は「この作品は多様性という言葉にはじかれてしまうような、マイノリティのなかのマイノリティ。非常に些細な、小さな人間たちを題材にしています。言葉だけではなく、この映画を観てたくさんの人が多様性の意味を感じていただければと思っています」と呼びかけ、「こんなにステキな賞をいただけて幸せ」と感無量の面持ち。「稲垣さん、新垣さん、磯村さん、皆さんに伝えたいと思います」と喜びを語った。
また最優秀監督賞としても名前を呼ばれたのが、『正欲』の岸監督だ。岸監督は、初の国際映画祭コンペティション部門出品にして監督賞の受賞を成し遂げた。プレゼンターのアルベルト・セラ監督は本作を「ソーシャルメディアに支配された社会のなかで、アイデンティティを確立することの難しさ、複雑さを描き出した」と評した。大きな拍手を浴びながら再びステージに姿を現した岸監督は「これからの励みになります」とコメント。「この作品は、すべての人が自由で自分を偽らずに生きていける社会とは何かということを問いかけています。日本のみならず世界で、なかなか自分のアイデンティティを確立することは難しい時代です。これを励みにこれからもいろいろな映画、いろいろなテーマで作っていきたいと思います」と映画に込めた想いと共に、未来を見つめていた。
ヴェンダース監督は「第36回東京国際映画祭の審査委員長を務められたことを光栄に思います」とニッコリ。「他の4人の実力派の審査員と共に、世界中から集まった15本の作品を観て、満場一致で東京グランプリ、他の賞を決めることができました。またオープニング作品として『PERFECT DAYS』を紹介できたことも誇りに思っています。アイラブ、TIFF。これからも成功を祈っています」とメッセージを送った。クロージング作品『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督、神木隆之介、浜辺美波が登場するひと幕もあった。山崎監督は「『ゴジラ』を最速で観られるのは東京国際映画祭だった、という時代がありました。先輩たちに憧れていた。自分の『ゴジラ』が映えある場所に来られてうれしく思います」と感激していた。
10日間の開催期間で上映された映画は、219本。上映動員数は74,841人にのぼった。海外からのゲストとして約2,000人が参加した。安藤裕康チェアマンは映画祭を訪れた観客に感謝を伝えつつ、業務に携わった職員、そして約300人のボランティア、インターンのスタッフにもお礼を述べた。最後に数十名のボランティアスタッフがステージに上がると会場からも大きな拍手が送られた。