ギャスパー・ノエ監督、『VORTEX ヴォルテックス』を引っ提げ来日!ダリオ・アルジェントを主演に抜てきした理由を明かす|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
ギャスパー・ノエ監督、『VORTEX ヴォルテックス』を引っ提げ来日!ダリオ・アルジェントを主演に抜てきした理由を明かす

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ギャスパー・ノエ監督、『VORTEX ヴォルテックス』を引っ提げ来日!ダリオ・アルジェントを主演に抜てきした理由を明かす

新作を発表する度に実験的な試みと過激描写で世界中を挑発し続けてきた鬼才ギャスパー・ノエ監督が最新作『VORTEX ヴォルテックス』(12月8日公開)を引っ提げて4年ぶりに来日。11月14日にはヒューマントラスト渋谷で先行プレミア上映が行われ、盟友である塚本晋也監督と共に舞台挨拶に登壇した。

【写真を見る】日本のファンとの再会を喜び、笑顔で手を振ったギャスパー・ノエ監督
【写真を見る】日本のファンとの再会を喜び、笑顔で手を振ったギャスパー・ノエ監督

ノエ監督が“暴力”と“セックス”を封印し、自身の体験に基づき、“病”と“死”をテーマに作りあげた本作。認知症を患う妻と、心臓に持病を抱える夫。人生の最期の時を迎えようとしている老夫婦の日常を“スプリットスクリーン”を駆使して2つの視点から同時進行で映しだしていく。80歳にして初主演を果たしたホラー映画の帝王ダリオ・アルジェントと、『ママと娼婦』(73)で鮮烈な映画デビューを飾り伝説的な女優となったフランソワーズ・ルブランが主演を務めた。

ギャスパー・ノエ監督、「ぜひ皆さんに泣いていただきたい」とアピール
ギャスパー・ノエ監督、「ぜひ皆さんに泣いていただきたい」とアピール

来日を待ち侘びていたファンから大きな歓声と拍手を浴びたノエ監督は、「久しぶりに来日できて、皆さんにお会いできて大変うれしく思っています」と感激しきり。「今回の映画はいままでのようにセックスや麻薬、暴力といったものをテーマにしていません。逆にセンチメンタルな映画です。ぜひ皆さんに泣いていただきたいと思います」と茶目っ気たっぷりに笑い、会場を盛り上げた。

本作の経緯について、ノエ監督は「2021年の初めころ、ちょうどコロナの外出禁止例の時期。パリの通りには誰もいないような状況でした。そんななか2、3人の登場人物で、小規模のチームでの映画を作らないかというお話をいただいた。おかげさまで2週間くらいで撮影場所を見つけて、2月にシナリオを書き始めて、3月に撮影。4、5月に編集。6月初旬にはすでにカンヌ映画祭で上映されました。超スピードで出来上がった映画です」と説明。「コロナでみんなが感染を怖がっていた時期。撮影の間も緊張感が走っていて、いままでとは違う独特な雰囲気のなかで撮影が進みました」と特別な映画になったという。

スペシャルゲストとして登場した塚本晋也監督
スペシャルゲストとして登場した塚本晋也監督

ノエ監督と塚本監督の出会いは、1992年にさかのぼるとのこと。塚本監督は「『鉄男II』という映画を作っていたころに、アボリアッツ・フィルム・フェスティバルに参加した時に 最初に会った監督。お互いに紹介をし合って、『僕の映画を観に来て』ということで軽い気持ちで観に行ったら、それが『カルネ』という映画で。本当にすばらしい映画で、度肝を抜かれた」と振り返りつつ、「映画祭に行くたびにギャスパーに会って、だんだん親睦が深まった。いろいろな経験をギャスパーにさせてもらった」と感謝。すでに本作も鑑賞したそうで、「絶句するような映画。僕も母と父を10年くらい前に亡くしていますが、その時の感じが生々しくよみがえってくる。僕にとってはかなりハードな映画。暴力もセックスも出てこないけれど、恐ろしさがある。歯ぎしりするような、深い愛情が描かれた映画」と驚きと共に語る。

息ぴったりにトーク!お互いの作品へのリスペクトを明かした
息ぴったりにトーク!お互いの作品へのリスペクトを明かした

「私も塚本監督に初めてお会いした時のことを、よく覚えています」と目尻を下げたノエ監督は、「塚本監督の最新作『ほかげ』、そして本作もそれぞれのこれまでの作品のなかでもっとも真面目な作品になっていると思う」とニヤリ。塚本監督も笑い声を上げるなか、ノエ監督は「どちらもホラーじゃないけれど、心理的ホラー要素のある映画だと思う」と分析した。


本作でダリオ・アルジェントが初主演を務めたことも話題となっているが、セリフは存在せずに、すべてアドリブで撮影が行われたのだとか。監督が俳優として映画に参加したとあって、司会から「いつか塚本監督もノエ監督の作品に出演する可能性はありますか?」と尋ねられると、ノエ監督は「(マーティン)スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』のなかで、晋也さんが演じているシーンが大好き。ぜひ私の映画にも出ていただきたい」とラブコール。「スコセッシ監督作品のなかで十字架にはり付けられた俳優としては、最高の俳優」と楽しそうに称えると、塚本監督は「海のなかで十字架に縛り付けられた俳優としては、最高かもしれない」と話して、2人で大笑い。続けてノエ監督は「監督というのは、俳優さんがちゃんと演じてくれるのか心配になってしまうものだけれど、ダリオさんは監督なので、私の気持ちをよく理解してくれた。非常にスムーズだった。もし将来的に日本で映画を作ることになれば、ぜひ晋也さんに出演していただきたい」と望み、塚本監督も「よろしくお願いします」と笑顔で応じていた。

会場から大きな拍手を浴びた
会場から大きな拍手を浴びた

アルジェントの演技には、塚本監督も大いに感動したそうで「僕も大好きな監督。『シャドー』という映画を観てから、映画ってこんなに自由でいいんだと、『鉄男』を作る時にも影響を与えてくれた映画。当時はちょっと怖い顔をしていたのが、この映画のなかでは親しみ深いおじいちゃんになっていてびっくりした。演技があまりにすばらしい」と絶賛。ノエ監督は「ダリオさんは、とてもフレンドリーで親しみやすくて、おもしろい方。彼の特に好きなところは、私の父親にも似ているんですが、大きな身振りをしながら話すところ。とても親近感を覚えていて、キャスティングを考えた時に彼しか頭に思い浮かばなかった」と告白。「暴力シーンもセックスシーンもない。エロチックな映画ではないので、安心してくださいと、ダリオさんにお伝えしました」とキャスティングの経緯を明かした。

ダリオ・アルジェントについて「映画界のロックスター」と語ったギャスパー・ノエ監督
ダリオ・アルジェントについて「映画界のロックスター」と語ったギャスパー・ノエ監督

さらにノエ監督は「台本に会話は書かれていない。ダリオさんには『人物像を作ってください』とお願いしました。するとダリオさんは『僕は浮気をしてもいいかな』と提案してくださって。少ない人数で撮影をしていたので、衣装係が彼の恋人役になりました」と笑顔。「撮影している最中も、彼と一緒に作り上げたという印象が強い。彼は映画界のロックスターのような存在で、非常にカリスマ性のある方」と尊敬の念を口にしていた。塚本監督、そして日本のファンとの再会を喜び、ニコニコとした笑顔が止まらなかったノエ監督だが、最後に「観終わった後にここにいらっしゃる皆さん、全員が泣いてくださることを願っています。もし何人か泣かない方がいたら失敗作。ぜひ泣いてください」とアピール。大きな拍手を浴びていた。

取材・文/成田おり枝

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