『マーベルズ』が北米首位デビューも…MCU作品を襲う“ヒーロー映画疲れ”の影とストライキの余波
先週末(11月10日から12日)の北米興収ランキングは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作『マーベルズ』(日本公開中)が初登場No.1を獲得。これでMCU作品は『アイアンマン』(08)から33作品連続(再上映を除く)で首位デビューを飾ることに成功。ちなみに北米におけるMCU作品の累計興収は『マーベルズ』公開前の時点でおよそ117億ドル。同作が3億ドル級のヒットとなれば累計120億ドルという前人未到の大台に突入することになる。
北米累計興収4億2600万ドルを突破、全世界興収も11億ドルを突破した『キャプテン・マーベル』(19)に引き続き、ブリー・ラーソン演じるキャロル・ダンヴァース/キャプテン・マーベルを主人公にした『マーベルズ』。自ずと公開前から期待は大きかった作品ではあるが、初日から3日間の興収は4611万ドル。これは『インクレディブル・ハルク』(08)の5541万ドルを下回る、MCU作品ワーストのオープニング成績だ。
長らく北米のみならず世界の映画界を牽引し続けてきたMCUに、いまなにが起こっているのか。まず前提として考えられることは、コロナ禍を経て映画を取り巻く環境が大きく変化したこと。それでも『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(21)が歴史的な大ヒットを記録したり、コロナ禍以降に公開された作品も安定した興収を叩きだしているので、それが直接的な原因とは考えにくい。とはいえ、これはほかの作品にもいえることだが、初動に偏る傾向が以前よりも強くなったことは否定できない。
そうした環境の変化がもたらしたのは言わずもがな配信サービスの台頭であり、今回の『マーベルズ』には、2021年以降に本格化したMCUのドラマシリーズに登場したキャラクターが主要メンバーとして登場。つまり、前作を観ているだけでは足りないハードルの高さがあるということで、さらに近年のヒーロー映画の特徴であるストーリーの複雑化、もちろんDCも含めたヒーロー映画の乱立も含めて、熱心に追い続けてきたファン以外が離れる理由があまりにも多くなってしまっている。
それに加えて、先日ようやく終結に向けた動きが見られ始めた全米俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキが、作品のプロモーション活動と重なってしまっていたことも少なからず影響を与えているはずだ。キャストらのメディア露出が少なくなれば、ここからMCUに興味を抱く新たなファンを獲得するのも難しくなるわけで、2週目以降の持続力を弱めてしまいかねない。そうなれば、冒頭で述べたMCU累計120億ドル到達は次作までおあずけとなる可能性はより一層強まる。
MCUの次の長編映画となるのは、待望のMCU入りを果たす「デッドプール」の3作目であり、現時点では来年夏の公開が予定されている。先述のストライキの影響で多くの作品のプロダクションが遅れ、今後の公開作のスケジュールが続々変更となっていることは、かえって“ヒーロー映画疲れ”を和らげてくれることにも繋がるかもしれない。まだ王者復権の余地は充分に残されているだろう。
文/久保田 和馬