岩井俊二、大根仁、新房昭之が語る“圧倒的なひと夏の物語”ができるまで|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
岩井俊二、大根仁、新房昭之が語る“圧倒的なひと夏の物語”ができるまで

インタビュー

岩井俊二、大根仁、新房昭之が語る“圧倒的なひと夏の物語”ができるまで

夏の話題作として注目を集める8月18日(金)公開の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』。原作者の岩井俊二、脚本の大根仁、総監督の新房昭之。少年少女がある夏の日を繰り返す名作青春ドラマを、新たな長編アニメーションとしてつくり上げたキーマン3人に、本作の制作秘話を聞いた。

――『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』をアニメ化したいという話を初めて聞いた時は、どんなお気持ちでしたか?

岩井「もちろん驚きましたが、個人的にアニメーションは大好きなジャンルなので、これはもう自由につくっていただこうと。仮に全く違うものになっても、むしろその違いを楽しみたいなと素直に思いました」

大根「僕は最初にお話をいただいた際に、実写でのリメイクだと勘違いして、即座に『絶対に無理です!』と返事をしました。ところがよく聞くとアニメという話で、今度は『アニメ監督なんて無理です!』とお答えして。でも実際にはアニメの脚本でした(笑)。しかもあの『魔法少女まどか☆マギカ』の新房監督とシャフトさんとご一緒できるということで、これは想像を超えた新しいモノができるのではないかと感じ、すごくワクワクしましたね」

新房「僕も最初は『打ち上げ花火〜』って実写じゃなかった?と驚きました。アニメの実写化はあっても、実写作品のアニメ化というのはあまり例がないですから。ただ常に新しいことに挑戦しようというのが我々シャフトの基本スタンスなので、ぜひやってみようと」

――93年にドラマ『打ち上げ花火〜』をつくられた際、岩井監督が込められた思いとはどんなものでしたか?

岩井「子供時代に体験する“圧倒的なひと夏の物語”というものを表現したかったんだと思います。内容は違っても、誰もがそれぞれの“ひと夏の体験”というものを持っていますよね。大人になるとそんな体験はできないだけに、『子供時代の夏っていったい何だったんだろう?』という気持ちがあって」

大根「たしかに小学生時代の夏って、大人になった今でも鮮明に覚えていて、『打ち上げ花火〜』はその時の感覚が映像として強烈に表現されているんですよ。だから普通のドラマや映画を観た時に感じる感動とは別の衝撃を受けたんです。僕個人としても映像ディレクターとしてもスゴく影響を受けた作品で、何度観直したか分からないくらい。おそらくつくった岩井さんよりも観ていると思います(笑)。好き過ぎるあまり、ドラマ『モテキ』では岩井さんに無断でパロディをつくったくらいですから」

岩井「あのパロディは凄かった。カメラアングルからカット割りまで完全に再現されていて、ここまでなぞれるんだと、逆に感動すら覚えましたから」

大根「その節はすみませんでした。でもそのおかげでこうして岩井さんともお仕事ができるわけですから、やってみるものですね(笑)」

新房「僕もその当時観た記憶はあるのですが、今回のお話をいただいてきちんと観返しました。とにかくビジュアルが素晴らしくて、これをアニメ化するのは畏れ多いなというのが第一印象でした。ただ同時に、実写表現がどんどん進化していくなかでアニメが持つ優位性って何だろうと考えることが多くなっているだけに、タイミング的にも非常にやりがいがあるアニメ化だと感じましたね」

――45分の原作を約90分に再構築していますが、脚本作業はどのように進められたのでしょう。

大根「2週間に一度、この3名と川村(元気)プロデューサーほか数名が集まり、いろいろなアイデアを出しながらコツコツとつくっていきました。打ち合せ後は必ず飲みに行き、そこでもアイデアが出るので、その度にレモンサワーのグラスを置いてメモをするなど、僕は書生に徹していました(笑)」

新房「僕は特に何もしていません。2人の話がおもしろいので、なるほどと頷いて聞くばかりでした」

大根「いやいや、新房監督もいろいろとアイデアを出してましたよ。まあ、一番ぶっ飛んだ提案をしていたのは岩井さんですけどね」

岩井「そうでしたっけ?(笑)僕としては、できるだけ皆さんの自由な発想にお任せしようと思っていたつもりなんですけど」

――ストーリーとしては、前半は比較的原作に沿った形で、後半はファンタジックな展開へと移行していきますよね。

大根「それも岩井さんの言葉がきっかけだったような気がします」

新房「そうそう。岩井さんが『列車が海底に潜っていって…』とか言っていましたね」

大根「そもそも僕は『打ち上げ花火〜』のことは『小さな恋のメロディ』や『スタンド・バイ・ミー』のようなものとして捉えていましたが、岩井さんは『銀河鉄道の夜』みたいな話にしたかったと」

岩井「もちろん『スタンド・バイ・ミー』も意識にはあったと思います。ただ僕は根底にずっと『銀河鉄道の夜』のようなラインをやりたいという思いがあって、そこはずっと変わっていないような気がします。もしくは『風の又三郎』などですね。だから『打ち上げ花火〜』でも、列車に乗って変な世界に迷い込むような展開は、以前から僕の頭の中では考えてはいたんですよ」

大根「その話が大きなヒントになりましたね。僕が原作でもっとも分からなかったのが、『なずなと典道はなぜ列車に乗らなかったのか?』なんです。あれっていわゆる“超展開”ですよね。だから、もし2人が列車に乗っていたら、その先はどうなっていただろうかと考えて後半のストーリーを組み立てていきました」

――列車に乗ってからファンタジー色が濃くなるのはそういう理由だったんですね。

大根「この作品でなければできない、そしてアニメでなければできない表現をするには、列車後のファンタジー描写は必然でした」

新房「大根さんからいただいた脚本の第一稿を読んだ段階で、なるほどと腑に落ちた感覚があって。僕にとって新鮮だったのはセリフ回し。すごくナチュラルでストレートなんです。実際に役者陣のお芝居を当ててみると、ひと言でも強い存在感があったり、声が入っていないシーンでもキャラクターが息をしているような雰囲気が出たり。特に今回は俳優さんたちが演じるお芝居とセリフの合致が素晴らしかったと思いました」

――一方で映像面ではどんなところに意識されましたか?

新房「原作のなずなが強烈な存在感を放っているので、それに負けないようにしようと。なずなが可愛く見えるかどうかをひとつの軸に演出しています」

大根「R指定なんじゃないかと思うくらい、なずなのエロさが尋常じゃないです(笑)。そこは原作を超えていると思いますよ」

岩井「アニメになると、最初に思っていた以上に違うものになっていて驚きました。それなのに『あれ? 聞いたことのあるセリフがある』という…不思議な感覚です」

新房「スタッフに『打ち上げ花火〜』ファンがいて、原作を正確になぞっているシーンも多いです。『セリフの間まで合わせました』とか(笑)。このアニメ化をきっかけに『時をかける少女』のように、時代ごとにいろいろな形でリメイクされる作品になったら素敵ですね」

大根「既に僕が『モテキ』で再現していますから、その可能性は十分に有りえますね(笑)」【取材・文/岡本大介】

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