友達でも恋人でもない男女の、絶妙な関係性が心地いい。『夜明けのすべて』松村北斗×上白石萌音にインタビュー
「役柄のイメージによって、自分の評判が独り歩きしてしまうことが怖かった」(松村)
――いまのやりとりを拝見していても、お2人がまとっている空気感はどこか似ているような気がしているのですが、ご自身でもそう感じるような瞬間もあったりしますか?
上白石「ありましたね。撮影中に『急に自分の知名度が上がることについてどう思うか』という話をしたことがあるんですが、私たち2人とも、物事をものすごく斜めから見ているようなタイプの人間で…。『わ~い!』って、素直に喜べない2人だったという(笑)」
松村「たしか、事の発端は『カムカム~』の話からだったような…」
上白石「ああ、そうですね!」
松村「自分自身は、朝ドラの放送15分前と15分後で、なにも変わっていないのに」
上白石「世界は確実に動いてる!」
松村「僕自身は変わっていないにもかかわらず、演じた役柄のイメージによって“松村北斗”に対する評判まですごく上まで行ってしまったことが、怖くて怖くて仕方なかった」
上白石「そう! 怯えてた(笑)。『怖いですよね!』『わかります!』って。『カムカム~』の放送中も、きっとお互い同じような思いを抱えて過ごしていたんだろうなって、改めて思ったりもして。“夜明け”というよりはむしろ、“深夜”みたいな暗さの共鳴でしたね(笑)」
松村「そういえば、『傍から見ると社交的なようにも見えるけど、実は意外と人見知り』というところも似ている気がします。僕は、沈黙が怖くてやつぎ早に喋るタイプの人見知りなんですが、上白石さんも実は同じタイプだったということが、あとから判明したんです」
上白石「『夜明け~』の撮影の最初のころは、お互いそれで会話が続いていたんだと思う(笑)。でも、いつからか山添くんと藤沢さんみたいな感じで、沈黙が怖くなくなりました」
松村「時間差で会話が成り立つこともありましたよね。お互いひとしきり喋って満足したら黙って、自分の頭の中でまた好き勝手考えて。かと思えば『あ、でも!』とか『それこそ…』みたいに、唐突に脈絡なく話し出したりもする。で、いざ聞いてみたら、昨日話した話の続きだったりもするんです。あれは完全に、山添くんと藤沢さんの影響です(笑)」
上白石「ある意味、あの時期の私たちは本当に山添くんと藤沢さんだったんだと思います」
松村「それこそ、『カムカム~』のころって、実はそれほど長い時間一緒にいたわけでもなかったので、僕の中での上白石さんの印象って『すごくしっかりされていて、本当にすばらしい方ですね』というような、いわゆるちょっとよそよそしい感じだったんですが、今回『夜明け~』でご一緒してみて『あ、意外とジョークも通じる人なんだな』って驚いて」
上白石「つまらないヤツだと思われてたんだ(笑)!」
松村「いや、あまりふざけたことを言ったら敬遠されるかなと思っていたら、むしろジョークを口にされるほうが多いというか。ウィットに富んだ会話なんかも飛び出したりして」
上白石「アハハ(笑)」
松村「その時初めて『あ、人だ!』と思えたというか。 それまでは『女優さん』っていうイメージだったんですが、“センスのいいお笑いの方”なんだなと。ジョークが挟まるほうが、やっぱり会話も弾むじゃないですか。かといって、別に大笑いするほどでもなくて」
上白石「ずっとニタニタしてましたから。というのも、松村さんの話がまた、よ~く練られているんですよ」
松村「やめなさいよ!」
上白石「『もしや、ラジオでウケた話をもう一回してくれてるのかな?』と思う程に(笑)」
松村「実際、ラジオから下ろしたネタを披露したりもしていましたから(笑)」
上白石「私に笑いのセンスがあるのかどうか、試されていたのかもしれないですね(笑)」
――ところで、松村さんはここ数年「扉」に関わる役柄が続いているな、という印象がありまして。“戸締まり”したり、“ドアをノック”されたり…。
松村「いや、そうなんですよ。映画に、ドラマに、アニメに、実写に…。主に“扉”周りの俳優をやらせていただいております」
上白石「あ、本当だ! “扉俳優”だ!『すずめの戸締まり』に『ノッキンオン・ロックドドア』。ひょっとして、“扉モノ”を制覇しようと企んでいるとか…!?」
――ちょっとこじつけになる気もしますが、『夜明けのすべて』でも、山添くんのアパートのドアを通じて、2人が心の扉をお互いに開け合うとも言えますよね。
松村「いや、そうなんですよ! 僕も思ってました。藤沢さんがいきなり乗り込んできて、僕の髪を切ったりね。山添くんの家の扉を開ける時は、絶対になにかが起こるんですよ」
上白石「あのドア前のシーンは、私も思い出深いエピソードがいっぱいあります。誰かの家の敷居を跨ぐことって、やっぱりなかなかに大きな意味があることだったりするものなので。いろいろ攻防がありましたよね。山添くんの彼女と鉢合わせしたりもしましたし」
上白石「『上がっていかないの?』とか言うんだ、この人!とか思ったり(笑)」
松村「山添くんも、彼女の前では意外と言い回しが男っぽい感じだったりするんです(笑)」
上白石「そうそう。終盤では、山添くんも藤沢さんの家までわざわざ様子を見にきてくれたりもして。インターホン越しの会話、好きだったな。藤沢さんの忘れ物を届けにきた山添くんが玄関の前で『ここに置いておくんで』って言って、さっさと帰るんですよね」
松村「あんなにときめきチャンスが何度も訪れるのに、あの2人は(“ラブ”の方向には)1回もいかないんだよな」
上白石「ねぇ。あのシチュエーション、連ドラだったら絶対にすぐ使いますよね(笑)」
松村「うん。インターホン越しにね」
上白石「インターホン越しに、『待って!』って。でも、あの2人はやらない。そういうところが、藤沢さんと山添くんのいいところなんですよ。観ている方たちのなかには、最後までやきもきする方もいるかもしれないですけどね。『いけよ!』って(笑)」
取材・文/渡邊玲子