ロングヒット中の『キミスイ』、観客の心を掴む3つのポイントとは?
累計発行部数200万部の大ヒット小説を映画化した『君の膵臓をたべたい』が7月28日より公開され、ロングヒットを記録している。
本作は、高校時代のクラスメイト・山内桜良の言葉をきっかけに母校の教師となった主人公【僕】が、膵臓の病を患っていた桜良の死から12年後に、彼女が伝えたかった本当の想いを知るという物語を、過去と現在、ふたつの時間を交えながら描くラブストーリーだ。
パソコンと携帯を使った初日アンケート結果によると、観客のうち男性が48.9%、女性が51.1%、年代別では31.8%を占める10代後半に続いて、20代が23.0%、40代が13.5%もいるなど、男女問わず幅広い層に受け入れられているのがわかる。また、作品の満足度は95.6%と高く、95.5%が本作品を人に勧めると解答しており、驚異的な数字をたたき出している。
すでに公開4週目の週末となった8月19、20日の土日2日間の成績も、他作品がお盆休みの反動で、50%減など大きく数字を落とす中、前週比83%という驚異的なアベレージを維持。興行収入は22億円を突破するなど、公開後に作品の良さが口コミで広がり、ロングヒットになっているのがお分かりいただけると思う。
本作がこのようなヒットになった理由を、邦画の名作ラブストーリーと照らし合わせて分析してみると、ラブストーリーを名作にする3つのポイントが浮かんでくる。ここでは、それぞれのポイントに沿って、魅力を紐解いてみよう。
ポイント1 “音楽”
やはり恋愛に音楽はつきものの様で、恋する躍動、失恋の悲しみなど、ポップ・ミュージックはいつの時代も恋を歌ってきた。
音楽が話題となったラブストーリー映画で記憶に新しいのは『君の名は。』だろう。人気ロックバンド・RADWIMPSは、映画のために主題歌のみならず、劇伴までを書き下ろした。自身もRADWIMPSのファンである新海誠監督は、RADWIMPSのボーカル・野田洋次郎と2年余りに及ぶ共同作業を経て、映画を完成させた。その結果がどうだったのかは、映画をご覧になった方ならお分かりいただけるだろう。
『君の膵臓をたべたい』で話題を集めているのが、Mr.Childrenによる主題歌「himawari」が映画と完璧にマッチしている事だ。デビュー25周年を迎えたミスチルのボーカル・桜井和寿が、書き下ろしのオファーを受け「やっとのこと辿り着いた曲は、自分の想像を超えていた」と語るほどの自信作だ。原作者も太鼓判を押したミスチルの新たな名曲を、ぜひ映画とともに堪能してほしい。
ポイント2 “ノスタルジー”
学生時代の恋と、今を生きる【僕】の両方を描いている『君の膵臓をたべたい』には、誰もが感じるであろう青春時代へのノスタルジーが溢れている。
本作のようなノスタルジックな青春を描かせたら右に出る者がいないのが、原作を務めた映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』が公開中の、岩井俊二監督だ。特に、長編映画デビュー作である1995年の『Love Letter』では、一通のラブレターをきっかけに、過去と現在、真冬の小樽と神戸が交差するストーリーが描かれており、美しい映像で切り取られた雪景色は、真夏に冷房の効いた部屋で観るのがオススメだ。
ポイント3 “再生”
『君の膵臓をたべたい』を語る際、多くの人が引き合いに出すのが、言わずと知れた純愛映画の金字塔『世界の中心で、愛をさけぶ』だ。本作と『世界の中心で、愛をさけぶ』の間には、確かに共通項が多く、ベストセラー小説の映画化であり、亡くなってしまった学生時代の“彼女”を現在の主人公が思い出す構成や、難病に立ち向かうヒロイン像、過去の主人公とヒロインを、最注目株の若手役者である、北村匠海と浜辺美波 (『セカチュー』においては、森山未來と長澤まさみ)が演じている事などが挙げられる。
それらの共通項も重要だが、本質的に『キミスイ』と『セカチュー』の間で共通しているのは“再生”というテーマだ。
過去と現在、ふたつの時間を描くことで、喪失感と、そこから“再生”し、一歩踏み出す力を描き出している。両作ともにヒロインの死を描いてはいるが、現在の主人公が現実と向き合うことで、彼女の想いが、主人公の中で“再生”していく。その再生の物語に、観客は心を打たれるのだろう。
過去の名作の素晴らしい部分をたっぷりと受け継ぎ、それを新たな魅力にまで昇華させた『君の膵臓をたべたい』。3つのポイントにも注目すると、映画がより楽しめるのではないだろうか。【Movie Walker】