黒沢清、「大島渚賞」授賞式で坂本龍一の審査を振り返る「映画に対し情熱があり厳しい目を持っていた」
第5回「大島渚賞」の授賞式が3月18日、東京・丸ビルホールにて開催され、審査員長の黒沢清監督が審査講評とトロフィー授与を行なった。
「大島渚賞」とは、一般社団法人PFFが2019年に創設した、国際的活躍が期待される若手映画監督へ贈られる賞。対象となるのは、前年に発表作品があり、劇場公開作3本程度までの若手監督。各国の映画祭プログラマーやディレクター、映画人の推薦により、審査員が受賞者を決定。デビュー以来、日本社会に波紋を投じる作品を世に送り出した大島渚監督に続く次世代の監督を、期待と称賛を込めて顕彰する。
PFF理事長の矢内廣は、第1回より審査員長を務めてきた故・坂本龍一との思い出を振り返り、「引き受けていただいた時は大変嬉しくて。やっと『大島渚賞がスタートできる』と喜んだことを思いだします」としみじみ。大島監督に迎合するのではなく、挑発する作品に出会いたいと、命をかけて審査してくれた坂本への感謝の言葉を述べ、会場に呼びかけ黙祷を捧げた。
受賞映画『遠いところ』は、2023年に公開され、第56回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭コンペティション部門に日本映画として10年ぶりに正式出品を果たし、第23回東京フィルメックスでは観客賞を受賞。国内外で高い評価を得ている作品だ。「自信を持って選ばせてもらった」と語った黒沢は、坂本の映画への想いに触れる。「映画に対して非常に情熱的でありながら、厳しい目を持っていた。『大島渚賞』なので、大島渚に匹敵する、大島渚が目指していた方向に向かっている映画を選ぶということで、ハードルが高くなるのはわかっていたけれど」と予想を超える厳しさだった模様。
坂本は常々「日本映画はある個人を描くことには長けている。でも、取り巻く外部になにがあるのか。(外部に)ちゃんと向けた映画が一本もない」と言っていたとし、「『遠いところ』のいいところは、主人公を引き立てるために外側を描くのではなく、主人公の外側に沖縄、日本があるということを歴然と描いている。ほとんどの日本映画ではこの映画のような結末ではかわいそうにとなるけれど、この映画では憤りさえ感じる。それがすごいところ」と絶賛。さらに、「映像が美しく、カメラの位置が的確。本当に心地よい。松竹撮影所での古典的で普遍的なスタイルをちゃんと踏まえているのを感じました。『大島渚賞』にふさわしい作品に久々に出会いました」と賛辞を贈った。
大島渚の息子であり、ドキュメンタリー監督で大島プロダクション代表の大島新は「ドキュメンタリーで描くのはとても難しい題材を、劇映画という形で描いた作品。目を背けたくなるような作品であるが故に、この映画の価値があると感じました。思えば大島(渚)の作品も普通の人なら目を背けたくなるが故に、描いている作品でした」とコメントし、記念品として大島渚が愛用していたモンブランの万年筆を贈呈した。
「スピーチを考えてきたけれど全部吹っ飛びました」と話した工藤将亮監督は、「『御法度』の(ライン)プロデュサーの元持(昌之)さんは僕を映画の道に導いてくれた人。(今日の姿を)見せたかったです。会場に来る前に、帽子とメガネが吹っ飛んで、メガネが割れてしまって。調子に乗るな、映画に向き合えと言われているような気がしました」と涙を堪え、言葉に詰まりながら感謝。「『大島渚賞』なので、これで終わってはいけない。もっと高みを、もっと上を目指さないといけないと思っています」と宣言。「えらい賞をもらっちゃったなと思っています。もう悪いことはできないですね」とニヤリとしながら「これからも情熱を燃やして映画に向き合って、一生懸命仲間と映画作りをしていきたいと思います」と力強く語り、大きな拍手を浴びていた。
授賞式では本作の主演、花瀬琴音へ工藤監督から花束が贈呈される場面も。「監督の授賞式なのに…」と遠慮気味の花瀬は「工藤監督は寄り添って戦ってくれる方。信頼して撮影ができました。まだまだ未熟でわからないことばかりですが、工藤監督に見つけていただいたこと、工藤監督の作品でデビューできたことはこれからも変わらないので、それを自信にして、経験を宝物にして、これからも素敵な映画作りに精進していけたらと思います」と笑顔いっぱいに決意を新たにしていた。
取材・文/タナカシノブ