片渕須直監督、新潟国際アニメーション映画祭で『つるばみ色のなぎ子たち』進捗報告!脚本を掲げて笑顔
片渕須直監督が3月18日、第2回新潟国際アニメーション映画祭を開催中の日報ホール(新潟市)で行われたトークショー「見え始めた『つるばみ色のなぎ子たち』の世界」に登壇。最新作『つるばみ色のなぎ子たち』(公開日未定)について、進捗を明かした。
本作は、『この世界の片隅に』(16)の片渕監督による最新作。原作、監督、脚本を片渕監督が務めるほか、監督補には『この世界の片隅に』に続いて浦谷千恵、作画監督は安藤雅司、音楽を千住明が担当するなど、強力なスタッフが集結し、「枕草子」が書かれた平安時代の京都を舞台に清少納言が生きた日々を描く。
構想に6年をかけた本作は、片渕監督の徹底的な研究と調査と綿密な分析によって鋭意制作中。この日は片渕監督のパソコンに詰め込まれた膨大な資料を開きながらトークが進められたが、平安時代だけでなく、その前後の時代にわたってとことん研究を深めていることがわかり、観客からも「おお…」とたびたび感嘆の声が上がった。
平安時代の資料はとても少ないそうで、「困った」と苦笑いを浮かべた片渕監督。例えば女房装束の構造を知るために彫刻に目を凝らしてみると、袖からは下着が見えるけれど、襟元からは下着が見えないとわかり、新発見があるごとに人物表の下着も「描いたり、消したりを繰り返しています」と試行錯誤しているとのこと。また清少納言が住んでいた当時の地層まで調べ上げ、実際にいまのその場所に訪れてみてロケハンを敢行。建物は、当時の傾斜角まで考慮して描いていると話したほか、宮中で働いている人の出勤率や査定など、ありとあらゆる点について調べるごとに新たな疑問が生まれたり、興味も大いにそそられている様子。「そんなことを毎日やっています。大変です」「映画がいつできるか、ドキドキしますね」と自身をいじるように語って会場の笑いを誘いつつ、「これは何年経っても終わらないわけだと思うんですが、そうやって作っていくと、どんどん自分たちも平安時代に行ったような気持ちになってくる」とリアルな当時の人たちの気持ちを理解するために、必要な作業だと力強く語る。
いちから調べ上げていると当時の様子や清少納言、「枕草子」などについて定説として根付いているものとは「違うかもしれない」と思う部分が、いろいろと浮かび上がってきたという。片渕監督は「再検証するというのが、正しい道だと思っている。再検証を繰り返すと、いままで『こうなんじゃないか』と言われていたものとは、別の状態だったのかなと思える可能性がいろいろと出てくる。どちらが正しいとは決めつけないようにしたい」とコメント。着ているものや建物の様子、土地の高低差なども検証しながら「絵コンテを描いている」と続け、「普通はまず脚本を書いてしまうんですが、細かなところでこの人たちは本当はどんなことを考えていたんだろう、どんなところで、どんな格好をしていたんだろうと考えないと先に進まない」と自らのやり方を説明。「そろそろそういうものが見えてきたので、脚本という形で文字に起こしました。これがそうです」と脚本を掲げると、観客からは「おお!」と熱い反応が返ってきた。
さらに「『この世界の片隅に』では(原作者の)こうの史代さんが、『自分は歴史に詳しくない』という言い方をされていて。だからこそ『いちから調べ直した』と。そうしたら昭和8年には日本は空前のヨーヨーブームだったということがわかり、“子どもだった(主人公の)すずさんが、ヨーヨーをうらやましく見ている”というひとコマになる。戦争中にはずっとモンペを履いていたのかなと思うと、夏にはアッパッパを着ていたりもする。それまでの常識みたいなものと、ひとつ変えた目線で見たからこそ『この世界の片隅に』ができた」としみじみと語った片渕監督。「同じように『枕草子』も調べてみたら、別の筋の通り方が出てくるところがあった。多分これから自分が作る清少納言や中宮定子が出てくる映画は、これまで語られている『清少納言や中宮定子は、こういう人です』『2人はこういう仲です』『こういう生活をしていました』と思われているものとは、たぶん違うことがいっぱい出てくるんじゃないかと思う」と示唆しながら、「ピンチなんです。あらかじめこの話を言っておかないと、『それは違う』と言われてしまう(笑)」と打ち明けると、会場からも笑い声が上がっていた。
片渕監督は「新しい清少納言像を作り上げながらではなく、実際にあったもの、書かれたものを拾い集めて、いま映画づくりをしている」と取り組み方について話していたが、そうやって進めていくことで「『枕草子』はものすごくドラマチック」と実感したとも。「実際の人間ドラマが見てくる。考えていた脚本よりも、ずっとおもしろい世界がそこにありました」と熱を込めていた。
新潟国際アニメーション映画祭は、世界で初となる⻑編アニメーションを中心とした映画祭。アニメーションや漫画関連に従事する人々を約3000名以上輩出している日本有数のアニメ都市である新潟から世界へと、多岐にわたるプログラムを発信している。3月20日まで新潟市内で開催される。
取材・文/成田おり枝