『あの夏のルカ』や『インサイド・ヘッド』…ピクサーの凸凹コンビはなぜ仲良くなれるのか?
第88回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した感動作『インサイド・ヘッド』(15)の続編『インサイド・ヘッド2』(8月1日より公開)の公開を記念し、劇場未公開だった『あの夏のルカ』が公開中だ。本作では、主人公であるルカとアルベルトという“正反対”な2人の友情が描かれているが、「インサイド・ヘッド」シリーズのヨロコビとカナシミ、「トイ・ストーリー」シリーズのウッディとバズ、「モンスターズ・インク」シリーズのサリーとマイクなど、様々なピクサー作品で、タイプの違う2人のキャラが胸熱なドラマを繰り広げてきた。
いずれの物語でも、性格が真逆な2人が協力して、やがて互いを思いあえるようになる姿が描かれてきたが、そんな彼らが仲良くなれる理由は「自分のいつもと違う一面に気づけるから」だと法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授が解き明かす。
例えば『あの夏のルカ』に登場するルカは内気で気の小さい性格であるのに対し、アルベルトはやんちゃで怖いもの知らず。どこまでも突き進む活発な少年だ。そんな正反対の2人が意気投合して同じ夢を持ち、その夢を叶えるために憧れの人間の世界に飛びだしていく。制作スタッフのなかでも「私の周りにもアルベルトのように全然違う性格の友だちがいました」という声がたくさん上がったそうだが、そういう関係性はきっと誰にでもあることではないだろうか。
自分とはきっと性格が合わないだろうと思っていた人と急接近できたり、意外にも相性がよかったりする理由について、渡辺教授は「実はまだ解き明かされていない」と明かしつつ「例えば“引っ込み思案”“やさしさ”という点で、自分とは一見違う性格やタイプのように見えても、そもそもは開放性、誠実性、協調性といった共通の特性を誰もが持っています。ただ、その1つ1つの特性の強弱が人によって違うので、性格が違うようにみえるのです。自分とは違うタイプの人だと思っていても、一緒にいることが多くなると、自分のなかにある相手と類似した特性に気がついたり、お互いにそれが魅力的に感じたりするんだと思います。その人といることで『自分にはないと思っていたけど、こんなところがあったんだ』と発見するのです。一緒にアイスを食べたり、興味のあることを一緒にするということはもっと近づきたいと思う親密性を高めます」と解説。
本作でも、内気なルカが活発なアルベルトといることで、出会う前にはあまり見られなかった好奇心旺盛で何事にも挑戦しようとする一面が出てきたり、反対にアルベルトはルカと過ごすことで繊細な一面を見せるようになる姿が紡がれていく。
さらに、渡辺教授は「自分にないものを魅力に思うのはもちろんですが、自分の存在が相手にとって助けになることもあります。無意識のなかで相手の魅力がどこにあるかを感じ取りながら絆を深めているからこそ、ルカも自分のリスクを顧みない勇気が出たんですよね」と語る。
内気なタイプのルカが活発なアルベルトの魅力にふれていつもの自分とは違う一面に気づけたように、『インサイド・ヘッド』でも正反対な相手がいるからこそ、ヨロコビとカナシミはいつもと違う視点や新たな一面を見いだし、より相手を大切に想えるようになる姿が描かれた。そんなふうに、あなたにとっても“自分のいつもと違う一面”を引き出してくれる大切な友だちがいるはず。友情のすばらしさが心を打つディズニー&ピクサー作品を、ぜひ大切な人と大スクリーンで体感してほしい。
文/山崎伸子