「この映画がどんな人にも響くといい」死別した両親との再会を描く『異人たち』キャスト&監督が込めた想いを語る
第1回山本周五郎賞を受賞した名脚本家で作家の山田太一による長編小説「異人たちとの夏」を『荒野にて』(17)、『さざなみ』(15)などの監督で、脚本家のアンドリュー・ヘイが映画化した『異人たち』が4月19日(金)に公開される。英国インディペンデント映画賞では、作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞(ポール・メスカル)など主要部門を独占する最多7冠に輝き、第77回英国アカデミー賞や、第81回ゴールデン・グローブ賞などにもノミネートされるなど、賞レースでも注目を集めた本作から、親子の愛情があふれ出ている特別映像が解禁となった。
子ども時代に両親を交通事故で失ったアダムは、30年前に負ったそのトラウマゆえに誰かを愛することさえ忘れていた。そんなアダムが故郷を訪れた際、まるでタイムスリップしたかのように、死別した両親との再会を果たす。思いがけない交流によって、子ども時代に回帰していく様、そして、30年前当時の姿のまま、大人になったアダムと想いを通わせる両親の姿が、美しくも幻想的な映像と相まってエモーショナルに描かれる。
今回解禁となった映像でも、アダムが両親と再会を果たすその瞬間や、郷愁の眼差しで両親を見つめるアダムの姿、そして、かつて互いに抱えていた苦悩や葛藤を吐露し、家族の絆と愛を再びつなぎとめる描写が映しだされる。
父親を演じるジェイミー・ベルは「親なら失敗したくないが、失敗は付き物です。アダムの場合、幸いにも親が耳を傾け息子を尊重します。彼を解放するんです」と明かしている。本編では、辛い想いを抱えていたアダムを知りながら、当時手を差し伸べることができなかった父も葛藤していたことを知り、アダムは父の想いを受け入れる。二度と会うことも、話すこともできないと思っていた父や母との、時空を越えた邂逅とそこに描かれる深い愛に、観る者は胸を打たれること必至だ。
さらに、ヘイ監督はアダムを同性愛者として描き、彼が一貫して関心を抱いてきたセクシュアリティという主題も現代的な視点で掘り下げている。自身のパーソナルな記憶と想いを原作の物語に付与することで、いまを生きる人々の心に突き刺さる愛と喪失の物語へと昇華させた。本編では、アダムが母親へ向けて、自身がゲイだと告白するシーンも描かれており、アダムを演じたスコットは、「グッときます。個人的にすごく気持ちがわかるんです。僕もゲイですからね。温かい反応を祈りながら家族に打ち明けた経験もある。みんな家族の絆を感じたい」と自身の経験を踏まえた想いを明かす。
ヘイ監督はスコットについて、「すべてのクィア役がそうであるわけではありませんが、主役が役柄と同じセクシュアリティを共有していることは私にとって重要でした。この映画におけるクィアネスの探求には多くのニュアンスがあり、それを深いレベルで理解できる人が必要だったのです」とその起用理由を語り、本作でのスコットの演技を絶賛している。
「大抵の人には親や子がいて親子関係の複雑さを知ってる。だから、この映画がどんな人にも響くといいですね」と明かすとおり、山田が創作したユニークな幻想譚に魅了されたヘイ監督は、本作の再映画化にあたり、自らのプライベートな要素を織り交ぜ、愛と孤独、喪失と再生、家族の絆といった普遍的なテーマを探求。観る人の心に残る新たな傑作に期待が高まる。
また、映画『異人たち』の公開に先駆け、神保町シアターでは山田太一の追悼企画「映画で辿る――山田太一と木下惠介」が4月19日(土)まで実施中だ。日本を代表する名脚本家で作家でもある山田の軌跡をたどり、ヘイ監督が現代に蘇らせた映画『異人たち』をぜひ堪能してほしい。
文/山崎伸子