オスカー受賞の『関心領域』制作秘話をジョナサン・グレイザー監督が明かす!「ある意味では我々を描いた物語」

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オスカー受賞の『関心領域』制作秘話をジョナサン・グレイザー監督が明かす!「ある意味では我々を描いた物語」

第96回アカデミー賞で国際長編映画賞と音響賞の2部門に輝いたA24製作の『関心領域』(5月24日公開)は、英国の作家マーティン・エイミスの同名小説を原案に、第二次世界大戦中にアウシュビッツ強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長やその家族の暮らしを描く物語だ。メガホンをとった鬼才ジョナサン・グレイザー監督は、どのようにして本作を作りあげたのか、そして作品にどんなメッセージを込めたのか。その制作秘話をMOVIE WALKER PRESSが独占で入手した。

【写真を見る】英国映画界の鬼才が10年の歳月をかけて自身のルーツに関わるテーマに挑む!「自分自身の姿を見出すか、自分自身を見ようとするか…」
【写真を見る】英国映画界の鬼才が10年の歳月をかけて自身のルーツに関わるテーマに挑む!「自分自身の姿を見出すか、自分自身を見ようとするか…」[c] Kuba Kaminski

演劇監督や映画、テレビの予告映像制作、さらにはミュージックビデオなど、ユニークな表現を用いる映像作家として高い評価を集めるグレイザー監督は、『セクシー・ビースト』(00)での長編監督デビューから24年間で手掛けた作品は本作を含めてわずか4本。前作『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(13)から実に10年ぶりの新作となったが、その歳月をすべて本作のために費やしていたのだとか。

「前作を完成させた時に、本作のテーマが持ち上がりました。これは私が人生のある時点で常に挑戦しようとしていたものだったと思います」と、エイミスの小説と出会ったことで生まれた本作のアイディアを振り返る。「原作を読むまでは、この映画の視点について考えたことがありませんでした。そして物語の片隅に記されていたルドルフ・ヘスと妻のヘートヴィヒについて、彼らがアウシュビッツでどのように暮らしていたかについてを調べ始めました」。

ホロコーストを描くため、グレイザー監督は被害者や生存者の証言をくまなく調査
ホロコーストを描くため、グレイザー監督は被害者や生存者の証言をくまなく調査[c] Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

ルドルフ・ヘスの一家についてグレイザー監督は、脚本作業に取り掛かる前に2年間をかけて徹底的に調べ上げた。また、ホロコーストを描くということもあり、被害者や生存者による何千、何万もの証言もすべて調べていったという。「そのひとつに、戦争を生き延びた庭師が、ルドルフが転勤することにヘートヴィヒが文句を言って激怒した瞬間について語ったものがありました。それを映画の設定にしたいと考えました」。

そして「我々が作った映画は、男とその妻を描くファミリードラマ。しかし彼はナチスのアウシュビッツ強制収容所の所長です。ここから傍観者的な虐殺というテーマが生まれましたが、ある意味では我々を描いた物語でもあります。この物語に自分自身の姿を見出すか、自分自身を見ようとするか、しかし我々が最も恐れているのは、自分たちが彼らになってしまうかもしれないということです。彼らも人間だったのですから」と、観客に向けてストレートな問いを投げかけた。

アカデミー賞では国際長編映画賞と音響賞の2部門に輝いた
アカデミー賞では国際長編映画賞と音響賞の2部門に輝いた[c] Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

アカデミー賞の授賞式でグレイザー監督は、いままさに起きているイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃を非難し「人間性の喪失が最悪の事態を招くことをこの映画では伝えています」と力強くスピーチ。ユダヤ人である自身のルーツにかかわるテーマに10年の歳月をかけて向き合った渾身の一本を、しっかりとその目に焼き付けてほしい。


文/久保田 和馬

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    アウシュヴィッツ強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描く歴史ドラマ