あのジョニデからのラブコールを断った!?破天荒すぎる映画監督エミール・クストリッツァとは?
カンヌ、ベルリン、ヴェネチアの世界三大映画祭を制した鬼才監督、エミール・クストリッツァ。9年ぶりの新作『オン・ザ・ミルキー・ロード』の公開を9月15日(金)に控えたクストリッツァ監督のいままでの偉業と共に、破天荒エピソードをご紹介!
1954年に旧ユーゴスラビアのサラエボで生まれたクストリッツァ。ロックに陶酔する息子を心配した両親によって、プラハの映画学校に入学させられるが、そこでいくつかの短編映画で賞を受賞するなど才能を開花させる。卒業後はサラエボに戻り、映画監督の道を歩み始め、初の長編作となる81年の『ドリー・ベルを憶えてる?』でヴェネチアの新人監督賞を受賞した。
そんな彼を一躍有名にしたのが、95年にカンヌで自身2度目のパルムドールに輝いた『アンダーグラウンド』だ。旧ユーゴスラビアが第二次世界大戦からユーゴ内戦にかけて滅びゆく激動の歴史を、風刺を交えてユーモラスに描き上げた一大群像劇。本作が現在も名作として語り継がれる理由の一つとして、戦争に振り回される人々の悲惨さを打ち消すかのように鳴り響く、半狂乱とも言える圧巻の音楽にある。
それもそのはず。音楽への強いこだわりを持つクストリッツァは、「エミール・クストリッツァ&ノー・スモーキング・オーケストラ」というバンドのメンバーでもある。バルカン半島を発祥とするジプシー・ミュージックと、ジャズ、ラテン、スカ、ロックなどをミックスさせた独自の音楽“ウンザ・ウンザ・ミュージック”を展開し、世界中でライブ活動を行っているのだ。
さらにクストリッツァには破天荒と言われるエピソードがある。その一つが、『アンダーグラウンド』への出演を熱望したジョニー・デップを断ったというもの。ジョニーとクストリッツァの関係は、前作『アリゾナ・ドリーム』にジョニーが主演していたことにある。『アリゾナ・ドリーム』のあとに『アンダーグラウンド』を撮影すると知ったジョニーは、自ら主人公の弟役に立候補。「演じるためならセルビア語をマスターする!」とラブコールを贈ったものの、クストリッツアから「今回はユーゴの役者だけで撮るから」とバッサリ断わられたという。
ほかにも、村を買うという豪快エピソードが。05年公開の『ライフ・イズ・ミラクル』の撮影で使用したセルビアの小さな村を気に入ったクストリッツァは村ごとお買上げ。村を“クステンドルフ (クストリッツアの村) ”と名付け、自費で映画学校やレストランを建設し、観光地化。さらに08年からは映画祭を開催し、ジム・ジャームッシュ、ダルデンヌ兄弟、イザベル・ユペール、さらにジョニー・デップがそこを訪れたという。
最新作『オン・ザ・ミルキー・ロード』では自ら監督・脚本に加え、主演を務めるクストリッツァ。戦争が終わらない架空の国を舞台に、戦場にミルクを運ぶ男を演じ、モニカ・ベルッチ扮する花嫁との愛の逃避行を描きだす。音楽を手掛けるのは実子で「エミール・クストリッツァ&ノー・スモーキング・オーケストラ」のメンバーでもあるストリボール・クストリッツァだ。祖国を失うという壮絶な経験をしたクストリッツァだからこそ描ける戦争の無情さと、エネルギーにあふれた止まない音楽の渦は、『アンダーグラウンド』を彷彿とさせる。日本での公開を心待ちにしてほしい。【Movie Walker】