山崎賢人主演『陰陽師0』の優美な世界を徹底解剖!美術&衣装に込められたこだわりとは
平安時代のイメージに縛られない衣装は“色”に注目!
一方、衣装デザインを担当したのは『オペレッタ狸御殿』(05)や『ナラタージュ』(17)の伊藤佐智子。「かっちりとした衣装イメージのある平安時代ですが、今回はアクションシーンもあり、衣装を通してよりダイナミックな動きを表現できるように蚊帳生地を使用しています」と、佐藤監督と共に平安時代の新たなスタイリングのあり方を探求したことを明かす。
「平安時代というイメージに縛られることなく、映画のなかに生きる役の一人一人が、その現実や暮らしに寄り添った衣装となっています」。伊藤のその言葉通り、各々の衣装にアレンジを施すだけでなく、山崎賢人演じる安倍晴明は“青”、染谷将太演じる博雅は“緑”、そして奈緒演じる徽子女王はつつじ色(マゼンタ)をキーカラーにしてそれぞれの登場人物の持ち味を活かしていく。
「これまで安倍晴明といえば白いイメージがありましたが、今回は彩度の高い青色を選びました。青い空や紺碧の海を想像させる瑠璃色。霊性や高潔さ、そしてサイキックアタックを遮断する意味をもつラピスラズリの色です」と、晴明に“青”を配した理由を説明する伊藤。さらに「学生時代の晴明が描かれているので、若々しいエネルギーを表現できる色にもなっています。晴明の“青”と博雅の“緑”。2人で地球の生命を象徴するような世界観を作りだしているのです」と付け加えた。
しかも晴明の衣装である青い狩衣に使用された生地は、晴明と縁がある高野山・奥之院の霊木から作りだしたものを使用しているという。「日本各地の間伐材を原料に再生繊維を生みだしている会社の協力を得て、今回は台風などで倒木した御霊木を微粒子化し、綿や和紙などとの繊維と練り合わせ、糸を紡ぎ、生地を編み上げました」と、見た目のデザインだけでなく素材まで徹底的にこだわり抜いたという。
「ただアクション用には耐久性に不安要素があったので、別の生地も用意しました」と、劇中の激しいアクションシーンに臨むための衣装では、立体的な遠州地方独特の“カラミ織”の手法を持つ静岡の「菊屋」のヘンプ100%の生地を使用したのだとか。「こちらは自然素材でありながら耐久性のある生地。アクションも無事に乗り切ることができました」。
また、徽子女王のつつじ色については「19歳というまだあどけなさや愛らしさの残る徽子女王には、情熱を表現できる暖色系のなかからもマゼンタであるつつじ色を選び、徽子女王の心の奥底にふつふつと持ち合わせる一生にわたるほどの情熱を表現しています」と語る。そこに「アトリエ染花」が手掛けた庚申薔薇や沈丁花、ピンクのバラの花飾りを添えることで、徽子女王の愛らしさが表現されていったようだ。
時代考証に適切に沿いながらも、独自の解釈とアレンジを加えて生みだされていった『陰陽師0』の世界。これまで様々なかたちで描かれてきた“陰陽師”の安倍晴明とは違う一面が垣間見えると同時に、目を奪われるほどの美しさに何度も驚かされることだろう。是非とも映画館の大きなスクリーンで、クリエイターたちの飽くなき探究の果てに作りだされた世界にどっぷりと浸ってみてはいかがだろうか。
文/久保田 和馬
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記