台湾映画初出演の門脇麦と俊英シャオ・ヤーチュエン監督が『オールド・フォックス 11歳の選択』舞台挨拶に登壇

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台湾映画初出演の門脇麦と俊英シャオ・ヤーチュエン監督が『オールド・フォックス 11歳の選択』舞台挨拶に登壇

侯孝賢(ホウ・シャオシェン)プロデュース、台湾ニューシネマの系譜を受け継ぐ俊英シャオ・ヤーチュエン監督による日台合作映画『オールド・フォックス 11歳の選択』が6月14日(金)より公開される。本作の公開を記念してヤーチュエン監督が来日し、4月17日に丸の内TOEIで舞台挨拶付き特別試写会が実施され、台湾映画初出演となる門脇麦と共に舞台挨拶に登壇した。

メガホンをとった俊英シャオ・ヤーチュエン監督
メガホンをとった俊英シャオ・ヤーチュエン監督

この日の会場となった丸の内TOEIは、昨年の東京国際映画祭で本作のワールド・プレミア上映が行われた会場となる。その後、台湾での公開を経て、再びこの劇場に戻ってくることとなり、ヤーチュエン監督も「僕にとって、この映画館はワールドプレミアが行われた場所であり、自分の夢が叶った場所でもあります。だから、再びここで上映できることはまさに祝福だと受け止めています。日本で成功することを願っています」と感激しきりだった。

【写真を見る】赤いドレスに身を包み登壇!台湾映画初出演となる門脇麦
【写真を見る】赤いドレスに身を包み登壇!台湾映画初出演となる門脇麦

続く門脇も「日本で公開されることをうれしく思います。私も10代のころから台湾映画に触れてきて、本当に台湾映画が大好きなので。いまでも本当に自分が参加したのだろうかと思うくらい実感が沸かなくて。夢のまた夢だったので、本作に参加できたこと、本当にうれしく思います」と笑顔を見せた。

門脇にオファーを出した理由について「僕はかつてホウ・シャオシェン監督と仕事をさせていただいていたんですけど、そのころに何度もホウ監督から『君も機会があったら日本の方と一緒に仕事したらいいよ』と言われていました。ホウ監督は日本の俳優と仕事をした経験があったので。彼から薦められたのがきっかけでしたね」と明かしたヤーチュエン監督は、「プロデューサーの小坂(史子)さんと出演者についてお話をしている時に、たまたま日本の俳優で誰かいい人はいないですか?という話になり。実は(門脇が出演する)Netflixの『浅草キッド』を観たことがあったので、(門脇)麦さんにお願いしたらどうだろうと。眼差しですごい芝居をされているなと思ったので、今回ご一緒できて本当にラッキーでした」と述懐。

門脇麦とシャオ・ヤーチュエン監督が撮影秘話を語った
門脇麦とシャオ・ヤーチュエン監督が撮影秘話を語った

そして実際に門脇と仕事をすることになったヤーチュエン監督は「正直、麦さんは非常に正直な方なので好きでしたね。前に観ていた『浅草キッド』と同じように、僕の作品でもすばらしい眼差しの演技をしていただいた。ファインダーを覗いていて、本当に美しいなと思いました」としみじみ語る。


その言葉に「うれしいですね」と笑顔を見せた門脇は、「台湾でもサブスクが流行っていて日本の作品を観てくださっている方も多くて。あれを観ましたとか、台湾ではこのドラマが流行っているんですよとか、共通の話題がもてる。やはりグローバル化というか、壁やハードルが、なくなっていくといいなと思っていましたね」とコメント。

そんな台湾での撮影を「幸せでした」と振り返った門脇は、「中国語を勉強したのも2か月なので、文法から勉強する時間がなかったので、台詞を丸覚えだったというのがありました。だから相手の台詞を聞いて、止まったかなと思った時に、私の台詞をしゃべるという瞬間もありました。ただ今回は80年代、90年代を生きた台湾の女性の役を演じたわけですが、役者というのはそういうもので。例えば戦後の京都の料理人をやったりとか。それも京都弁でしたが。自分の想像だけでは越えられないもの。でもその役の一番大切なエッセンスを自分なりに抽出して、自分とリンクさせればなにかが伝わるというか。たぶんそれが役者の仕事でして。側のことは撮り方だったり、技術もあるので、ある程度補えると思っているので、そこに関しては不安はなかったです」と語った。

またヤーチュエン監督とのコミュニケーションは英語だったというが、「私はヨーロッパ圏の監督とも仕事をさせていただいたこともあるんですが、不思議なことに、共通言語があるというか。目と目が合うだけで伝わるものがあって。言葉が伝わらないからこその、第五感、第六感でつながった感じがあるなと。監督やスタッフの皆さんに対しては勝手にそう思っていました」と振り返る。

本作で主人公の父タイライを演じたのは、日本でもスマッシュヒットを記録した『1秒先の彼女』(20)に出演していた台湾の実力派俳優リウ・グァンティンだ。そのグァンティンについて門脇は「実は顔合わせがコロナの関係でリモートだったんです。スタッフ、キャストも合わせて16~17人くらいで行ったんですけど、そのなかにアー写を貼り付けてるのかなと思うくらいに、1ミリも微動だにしない人がいて。そのお顔があまりにも美しくて、彫刻を映しているのかなと思うくらいでした。なんならその時のリモートを映すだけで映画が撮れるんじゃないかと思うくらいの存在感を感じましたね」と心から称える。

ヤーチュエン監督も「もちろん僕も参加していたんですが、皆さん初顔合わせなので、少し大人しくかしこまっていたんですけど、麦さんはそんななかでも全然かしこまってなくて。その時から好きな人だなと思っていました」と笑ってみせた。

台湾と日本の撮影スタイルの違いについては「1シーンにかけられる時間のかけ方が違いますね。食事にかける時間もしっかりとっていたし、ケータリングのごはんも温かかったので。そこが日本とまったく違っていて、驚きました」と明かした門脇。

ヤーチュエン監督も「自分としては正直、いつも通りに撮っていたので、わざと遅く撮ったわけではないんです。ただ出演者の麦さんが気持ち良く出てもらえたなら良かった」と安堵した様子だった。

本作の主人公、リャオジエが11歳であることを踏まえ「11歳の時にはどんなふうに過ごしていたか?」という質問も。それには「いろんなことを考えていた11歳だったなと思いますね」と振り返った門脇。「いま、思えば哲学だと思うけど、人生はなにが大切なのか、なんのために生きているのか、という漠然としたものを言語化したくて。本を読んだり、偉人の名言集を読みあさったりする反面、早く授業が終わらないかな、鬼ごっこしたいなと思うような11歳でした」と解答。

それは物心がついたときから考えていたそうで「なんのために生きているのかって『アンパンマン』の歌詞にもありましたけど、それが刷りこまれているんですかね?それと小さいころから父が『人生は全部決まってるから楽しく自由に一生懸命生きた方がいいよ』と、幼稚園とか小学生のころから言われてきたので、その影響はあったと思います」と門脇は語る。

続くヤーチュエン監督も「当時の僕は楽しく、シンプルな暮らしをしている子どもでした。僕は貧しい家で育ちましたけど、その家庭から与えられた安心感を持っていて。その当時、子どもなりに信じたものを信じるような子どもでした。そのせいか分からないですが、貧しいことに関しては非常に身近だし、それに対して思いを寄せることができるのかなと思いました。もちろん11歳当時に複雑なことを考えてたわけではないですが、生活のなかに安心感があって。その影響があったのかなと思います」と振り返った。

また、今月末に開催されるウーディネ・ファーイースト映画祭へのコンペティション部門への出品も発表され、ついにアジア圏を飛び出してヨーロッパに進出することにも期待に胸を膨らませていた。

そんな濃密なトークもいよいよ終盤に。最後に門脇が「主演のバイ・ルンインくんとリウさん、おふたりの眼差しがとても魅力的で温かくて。この映画とストーリーを支えているまなざしと輝きが堪能できると思います。そして監督の1人1人に対しての掘り下げ方、眼差し。その温かくて広くて深い眼差しに私はすごく救われました。公開まであと少し時間がありますが、映画を観ていいなと思ってくださったらぜひ。日本で映画館で観れるのは貴重な機会だと思うので、多くの方に観ていただけたらと思います」とメッセージを送った。

ヤーチュエン監督も「僕は、人の気持ちを察することができる能力は本来、先天的に人間に備わっている能力だと思うので、どうかそれがなくならない世の中になればと思ってます。この映画は選択をテーマにしている映画ですから皆さんに気に入ってもらえたら」と観客に向けて呼びかけた。

文/山崎伸子

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