アダム・ウィンガード監督が明かす、“昭和ゴジラ”へのリスペクトと新たな挑戦「怪獣映画のすべてをやり尽くした」
「怪獣映画を作るのはとてつもなくおもしろい経験」
本作を手掛けるにあたり「ありきたりなシチュエーションではダメだ」と考えたウィンガード監督は、まず多面的な悪役を作りだすことにも心血を注いだ。「これまでのゴジラやコングの映画では、最大の脅威であり最大の問題となるのは人類でした。人類が地球を破壊し自然を脅かす。そうした人類の悪の側面を、怪獣の視点から語る糸口となったのは、コングのなかにある人間性の部分でした」。そうして考えだされたのが、スカーキングという悪役だ。
「スカーキングは悪の独裁者の典型のようなものでしょう。古代の邪悪な存在であり、人類の暗黒面を象徴している。地下空洞に住む猿の部族を支配し、そこでショーを運営し、利己的な方法で行動している。劇中では彼の玉座の部屋のショットで、明らかにミニスケールな類人猿と、小さなハーレムが確認できると思います。彼はこの猿たちを自分の下で働かせている。猿たちは地獄に住んでいて、スカーキングはまさに悪魔のような存在なのです」と、ウィンガード監督はこの新たな脅威について解説する。
また一方で、“地下空洞”という舞台においてふたつのストーリーが同時進行することも本作の魅力的なシチュエーションとなる。「ケイリー・ホットルが演じるジアが、同族であるイウィ族が地下空洞の文明のなかにまだ存在していることを発見する旅と、その裏側でコングもまた同族がいることを発見しようとしている。このふたつの異なる世界を対比させ、ジアとコングがそれぞれの旅路で非常に似た経験をしていることを示したかった」と語るウィンガード監督は、「この映画は地下空洞内のふたつの異なる現実を探検するふたりの物語なのです」と断言。
「地下空洞はなんでも可能であり、私たちはずっと、歴史を裏返したような地下空洞を思い描いてきたと思います。イウィ文明は、エジプトのピラミッドの下にある隠されたポータルから直接アクセスできるようにしました。これが私たちにとってのアトランティス文明です。地表に存在していたのではなく、ずっと地下に存在していたのかもしれませんね」。
そして「『ゴジラvsコング』を作ったことで、私は怪獣たちに自分たちの物語を語らせることができるという自信を得られました。それは怪獣たちの非言語的な現実とコミュニケーションを描くというエキサイティングなことでもあります。怪獣映画を作るというのは、事前に準備できないスキルがどうしても存在する、とてつもなくおもしろい経験です」と満足そうに振り返る。
「私はただのモンスターヴァース映画ではなく、誰も見たことがないようなスリル満点の怪獣映画を作りたかった。だから今後どんな映画を作るにせよ、少なくとも怪獣に関してはこの『ゴジラxコング 新たなる帝国』ですべてを語り尽くたし、やり尽くした。そう思っています」。
構成・文/久保田 和馬