石原さとみ「母としての実体験が活きている」主演映画『ミッシング』公開直前“母の日”特別試写会で、心境の変化を吐露
映画『ミッシング』(5月17日公開)の公開直前「母の日」特別試写会が5月9日、ユナイテッド・シネマ豊洲にて開催され、主演の石原さとみが登壇。トークゲストでフリーアナウンサーの三田友梨佳と作品への思いや撮影時の心境などを語った。
本作は『空白』(21)『ヒメアノ~ル』(16)を手掛けた吉田恵輔監督のオリジナル脚本によるヒューマンドラマ。幼女失踪事件を軸に、失ってしまった大切なものを取り戻していく人々の姿をリアルかつ繊細に描き出している。石原は愛する娘の失踪により心を失っていく沙織里を体当たりで熱演。本作は石原の出産後初の主演映画となっている。
吉田監督の作品に出たいと願っていた石原が、本作の脚本を受け取ったのは4年前。「台本をもらったときは、娘を失う母親役にピンときていなくて。想像するしかなかったのですが、子どもを産んでから久しぶりに(脚本を)読んだときの衝撃は、苦しくて動けなくなるくらいでした」と、出産前後での脚本の受け止め方の変化に触れる。「子どもがいなかったら想像できなかったと思える感情があって。実体験が活きている役だと思います」と語り、自分の命よりも大切な存在ができたからこそ、わかる感情があったと説明した。
沙織里に感じた弱さについて「誹謗中傷で苦しみ、暴言をたくさん吐かれて自分自身が苦しんでいるのに、弟に対しては自分がされて嫌なことをついしてしまう。そんなところに沙織里の弱さを感じました。怒りは人を狂わせる。人間は完璧ではないという部分を描いているシーンだと思いました」とし、逆に強さについては「周りからどう見られようなんて考えない。娘を探すことに対してプライドなんてなくて、全力で突き進む。そのパワーを感じたし、夫の豊は左脳派で冷静に(物事を)見ている。どっちがいい悪いっていうのはなくて、どっちもいたというのは、強みかな」と話した。
徐々に心を失くし、人の意見も冷静に聞けない状態になってしまう沙織里について「もし、自分が彼女の友達だったらどうしていたかな?というのは、撮影後すごく考えました」と振り返る。撮影中はそういったことを考える余裕はなく、役に没頭していたとも明かし、「いまからお茶しない?などと呼び出すか、家に行くか。そして全然関係ない話をして、短時間でもいいので、一回深呼吸できるような環境を作ってあげたい」と沙織里の心に寄り添いたいと語った。また、青木崇高演じる夫、豊の存在について「イラッとするポイントもたくさんあると思うけれど、いてくれてよかったー!と本当に思いました」と感謝していた。
復帰後初の母親役は、子育てをしながらの撮影となった。両立は大変だったが、本作の撮影は3週間で終わったため「役に没頭できたのでありがたかったです」とニッコリ。「当時は保育園には行ってない頃だったので、家族やシッターさんの助けを借りてどうにか乗り越えました」としみじみ。「大変だったのは連ドラのほう。撮影時間が長かったし、スケジュールと大変なシーンと、子どもの病気が重なって。カオスでした」とため息混じりで語った石原。同じく母となった三田も「想像するだけでも泣きそうになる!」と共感。
子どもが風邪を引くなど病気が多い時期とドラマの撮影が重なっていたようで、「いつ落ち着くんだろうって思いながら。友達に相談したら小学校にあがったくらいかなと言われて。先だなって思って(笑)。でもまた違う悩みが出てくるからねと言われました」と苦笑い。母となり、いろいろと強くなったと感じていることもあるそうで「子どもはあんなに病気をしていたのに、ずっと看病しているのに私だけほとんどうつることがなくて。風邪をひいても熱が出ない。強くなったと思いましいた」と笑い飛ばしていた。
本作は、報道の現場やSNSとの向き合い方についても考えさせられる作品だ。「事実を伝えることが報道。でも事実を伝えることで傷つく人がいる。そういう葛藤を抱えながら伝えてきました」との三田の言葉に、石原は「映画のなかで『お気持ちはわかります』という言葉に対し『どのくらいわかってます?』と返すシーンがあります。視聴率とか優先順位とかあるのはわかるけれど、私自身疑問に思うことも多々あって。もうちょっと寄り添ってあげられたら、優しい世の中になるかなって思うことはある。もう少しって。でもそれも難しい部分があるのもわかるし、伝わるその先、視聴者を見なきゃいけないなと感じます」と自身の考えや思いを丁寧に解説した上で、「いろいろな立場のみなさんに観ていただきたいと思います」とアピールした。
イベントでは観客からの質問に答える場面も。「夫婦で観たい」というコメントに「友達や家族で観るのもいいけれど、圧倒的にパートナーと観てほしい」と話した石原。映画でも大切な存在を失った後の夫婦の感情の濃淡が描かれるとし、「行動の違いについて、意見の出し合いが活発になると思います。作品を観て感情を出し合ってほしいです」と笑顔で呼びかけていた。撮影中は本気で夫役の青木にイラッとすることも多かったとも明かした石原は「誕生日を祝うシーン。定点カメラでアドリブなんですが…」と前置きし、青木が役としてとったある行動に“イラッ”としたと指摘。「あのシーンは本当に夫婦に見えていたんじゃないかな」と役になりきっていたシーンだったと思い出し笑いをする石原に、観客もクスクス笑っていた。
人間の弱い部分や汚い部分が出ている映画でもあると話した石原は「だからこそ吉田監督の作品が大好き。映画館で観るからこそ、没入できるので、最後のあたたかさを感じることができると思います」と映画館で観るべき映画としておすすめ。さらになにかアクションを起こす前に、なにか言葉を口にする前に「大切な人だったら、知り合いだったら、と考えて、一瞬でも踏みとどまってほしい」と思いを伝え、大きな拍手を浴びていた。
取材・文/タナカシノブ
※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記