「孤独にならないで」SABU監督とイ・ジフンが共鳴する『アンダー・ユア・ベッド』のメッセージ
「言葉は伝わらなくても、監督に慰めてもらってるような気がしていました」(イ・ジフン)
――今回のストーリーは日本版と違って、主人公のジフンだけでなく、ヒロインのイェウン、そして、彼女に虐待をする夫・ヒョンオにも心に傷があるという設定をしっかりと描いてますね。
SABU「もともと韓国側からいただいたシナリオは原作とほぼ同じだったんですが、現場に入ったら、プロデューサーから『3人(ジフン、イェウン、ヒョンオ)の話にしてほしい』と言われて、それなら好きに変えてしまおうかと(笑)。それで本当は3人それぞれ、こうなりたいと思っている自分があったけれど、そうなれず、『助けて』と声をあげたかった時に言えなかったという過去を抱えている設定にして、物語を作っていったんです」
――なるほど。日本版よりも、3人の背景が描かれている分、物語にも深みを感じました。
SABU「僕は、映画を観た後は観る前よりも気持ちが少しでも上がっている作品を作りたい。だから、最終的に希望を持てるものにしたくて。今回は、何か優しさを感じられるものにしたかったんです。ただ性描写に関しては生々しくしたくなかった。先ほども言ったけど、今回はいただいた作品で、そもそも『お好きにやってください…』とも言われたので自分ならではの色を出してもいいだろうと。それで画角を4:3にすれば。展開が早く見えたり、アート的にも見えるだろうし、画面に余白が生まれるところで想像を埋めるというか。おもしろい効果もあるんじゃないかと、ある意味挑戦だったんです」
――イ・ジフンさんは今回、演じた役が同じジフンという名ですよね。先ほど、監督から「何も考えずに演じてほしいと言われた」とおっしゃっていましたが、実際に自分自身と重なったり共感したりするところはありましたか?
イ・ジフン「彼女に対する気持ちというよりは、人って豊かな環境で育っていても、そうじゃない環境で育っていても、誰でも何か満ち足りていないと感じることはあるじゃないですか。僕自身も親から少し離れている時があって。劇中のジフンのように子どものころ、家族に大事にされなかったという記憶があるんです。だから、少しだけジフンの気持ちが理解できて。それをちょっとベースにしてお芝居したっていうのは確かにあるかもしれません」
――SABU監督との仕事はどうでしたか?
イ・ジフン「すごく勉強になりました。自分自身、『アンダー・ユア・ベット』の前と後では芝居が少し変わっているような気がするんです。とくに、SABU監督との仕事で、自分が仕事をした韓国人監督からは聞いたことがない3つのことを聞きました。まず、『ここが足りない』ということをちゃんと言ってくれる。そして『ここはすごくよかった』とちゃんと褒めてくれるし、また『ここは間違っているね』ということも全部その場で言ってくれるので、自分が何をすればいいのかということがすぐ分かるんです。僕のことをここまで考えてくれるんだと思いましたし、監督との仕事でも自分の芝居も監督からすごく影響を受けました。本当に学ぶ機会になったなと、SABU監督には感謝の気持ちでいっぱいなんです」
――監督とのことで特に印象に残っていることはありますか?
イ・ジフン「監督は笑っている時の目がすごい可愛いんです(笑)。ただ、作品に関してはすごく真摯で、厳しいというのが魅力でもあるんですよ。だから『アンダー・ユア・ベッド』の現場はずっと温かい雰囲気で楽しくて。 作品が終わるまですごく幸せな気持ちでできました。僕にとって、一番の思い出になったのは、毎回撮影が終わってから現場の裏のほうで監督と休憩していたことです。僕が日本語ができたらよかったんですけど、できない。だから、2人でただ休憩しているだけなんですけど、言葉は伝わらなくても監督と一緒に過ごしているだけで、何かすごく慰めてもらってるような気がしていました」
――SABU監督は初めての韓国のスタッフ、キャストと仕事をして、日本とは違うと戸惑った場面などはありましたか?
SABY「いや、そんなことは全然なかったですね。やりやすかったし、みんな優しかったです。ロケハンの時も、たまたま通訳がいない時があったのですが、韓国語のわからない僕をすごく気遣ってくれました」
――今回の作品でSABU監督が観客に届けたいことはなんでしょう?
SABU「やっぱり『孤独にならないで』ということですね。この作品で主人公が取る行動は間違っていますが、助けがほしい時、声をあげれば、どこかで誰かが聞いていたり、受け止めてくれたりする。だから決して諦めないでほしいということを伝えたいですね」
――イ・ジフンさんの思う見どころやメッセージは?
イ・ジフン「まず、僕も監督がおっしゃったように、『孤独にならないで』ということですね。韓国で公開された時にもおっしゃっていて心にすごく残ったんですが、改めて言われたのを聞いて、本当に僕もそう思います。あなたの声をどこかで聞こうとしている人がいるかもしれないから、孤独にならないでほしいと思います。僕自身のことでいえば、この映画で初めて脱いだんです、上半身だけですけど。まあ、初めてなので (ヒョンヌ役の)スハンさんみたいに全部脱いだほうがよかったかなと思いますけど(笑)」
――今、日韓の俳優たちがドラマや映画で共演していますが、ジフンさんはどう考えていますか?また今後一緒に組んでみたい監督はいますか?
イ・ジフン「ハン・ヒョジュさんが今、日本で小栗旬さんとNetflixのドラマを撮影しているなど韓国の俳優が、日本で色々撮っているという話はけっこう聞くんです。なかには日本語が話せなくても出演している人もいます。僕はすごく暗記力がよくて覚えるのは得意なので、日本語のセリフは覚えられますから、機会があったら挑戦してみたいですね。日本映画のなかでは『そして父になる』が好きなので、是枝裕和監督と仕事できたらいいな。もちろんSABU監督とはまた別の作品でご一緒したい。どんなにちっちゃな役でもいいので。ぜひいつか出してくださいね』って、約束しましたよね(笑)」
SABU「その日を楽しみにしています!」
取材・文/前田かおり