50歳の有名作家が14歳の少女と“性的虐待”の関係にあった、驚くべき実話映画を作家・松久淳が語る!
全国11チェーンの劇場で配布されるインシアターマガジン「シネコンウォーカー」で、創刊時より続く、作家・松久淳の人気連載「地球は男で回ってる when a man loves a man」。今回は、小児性愛嗜好を持つ有名作家が少女と“同意”のうえで1年にもおよぶ性的関係にあったという戦慄の事件を描いた『コンセント/同意』(8月2日公開)を紹介します。
フォーマット映画かと思いきや、中盤からの展開がお見事
今回の『コンセント/同意』は、80年代、フランスの有名作家ガブリエル・マツネフが50歳の時に、14歳の少女ヴァネッサ・スプリンゴラと1年にわたる“性的虐待”の関係にあったことを描いた映画です。
「若い女が年上の男に手ほどきを受ける」というフォーマットの映画はよくあります。それこそ『マイ・フェア・レディ』から、大きくくくれば『ラストタンゴ・イン・パリ』や『あの頃ペニー・レインと』なども同じく。
私はキャリー・マリガン主演の『17歳の肖像』が大好きなんですが、インテリでスマートな男に新しい世界を見せてもらい、親や教師や同級生の話を聞かず周囲との関係を断ち切ってしまうが、やがてそれがよくいる男のよくある手口と気づき、目が覚めて本当の大人になっていくという話でした。
本作もまさにそれと同じ展開で話は進みます。でも、中盤からがまったく違う。
ヴァネッサは有名作家ガブリエルに詩的で情熱的なラブレターをもらって舞い上がり、それを本当の愛と思う。しかし皆は作品や発言で、彼が小児性愛者だと知っている。
でもそこは作家。ガブリエルは口八丁で、ヴァネッサだけでなく、彼女の母親まで言いくるめ、その後も揉め事が起こるたびに「我々の愛は偉大で稀有なものだ」「別れたら君のためにした努力が、君のために台なしになるだろう」と、“洗脳”のように言い続けヴァネッサを逃さない。
この描き方が本当に見事で、卑劣な男に知識と経験のない少女がからめ捕られていく様を、観客までなす術なく観ているしかないような気持ちにさせていきます。
そんなヴァネッサも、ガブリエルがマニラで10歳以下の少年を買春したことをそのまま小説に書いてるのを知り、別の少女を連れ歩いたりするのを見て、知り合った男性に説得されてようやく別れを決意します。
ここからの展開が前述した“手ほどき映画”とは違ってきます。
年齢的にもまだ成熟していなかったヴァネッサの心の傷は癒えず、さらに小児性愛者の有名作家といつも一緒にいたことで噂が広まり、教師に迫られて学校にいられなくなり、新しい恋人ともうまくいかなくなる。
一方、ガブリエルは平気な顔でTVに出て、小児性愛を小説にしたことを悪びれず語り、さらにはヴァネッサとの日々も克明に書いて出版までする。
ますます追い詰められたヴァネッサは鬱や不安症に陥り、薬物に手を出し“後遺症”とも呼ぶべき日々を送ることになってしまう。
という映画なのですが、実は驚くべきことにこれはすべて実話。ヴァネッサ、ガブリエルとも実名で、作家ガブリエル・マツネフはまだ存命でもあります。
映画のラストシーン、これ以上はありえないだろうなという、ヴァネッサのある決意が描かれるのですが、手をたたき応援したくなりつつも、同時に、それまでに30数年の時間が必要だったことを思うと言葉を失いました。
最後に。本作がほぼ映画初出演というヴァネッサ役のキム・イジュランがとにかく素晴らしく、彼女の表情と“目”が、この物語に引きずり込んでくれました。
文/松久淳
■松久淳プロフィール
作家。著作に映画化もされた「天国の本屋」シリーズ、「ラブコメ」シリーズなどがある。エッセイ「走る奴なんて馬鹿だと思ってた」(山と溪谷社)が発売中。