この結末は希望か絶望か。ソン・ジュンギの新境地&ホン・サビン、キム・ヒョンソの存在が光る『このろくでもない世界で』の見どころ
それぞれの解釈を出し合い、意味を探りたくなる映画
後半のトークでは、複層的な本作のストーリーに踏み込んだ。様々な愛のかたち、人間関係が絡み合う物語のため、観客からの感想や分析も、いろいろなものが出てきそうだと語った2人。ソン・ジュンギ演じる地元犯罪組織のリーダーのチゴン、チョン・ジェグァン演じるチゴンの手下のスンム、チゴンから「俺はお前のヒョン(兄貴)だ。ここを家だと思え。お前の居場所だ」と言われて加わるヨンギュの関係性が魅力だが、ソン・ジュンギのインタビューでは、ある意味“三角関係”と呼べる、というコメントも出ていたと明かした。
渥美は、チゴンがまるで家族と過ごす家づくりをするようにDIYをしていることなどに触れ、チゴンはヨンギュと家族の絆を結びたかったのではと予想した。しかし、暴力的で酒乱の父を憎み、お酒を一滴も口にしなかったチゴンが、ヨンギュとの殴り合いの後にお酒を口にしてしまう。そんなチゴンの哀しみや心情を独自に分析すると、観客が大きく頷いていたのが印象的だった。
さらに、チゴンが家族を作りたいという想いと同時に、死に場所を探していたとも指摘。そこから本作の英題『HOPELESS』であることに触れ、「韓国のタイトルは『ファラン』(和欄、オランダ)で、ヨンギュが憧れている場所の名前。これは“HOPE”を意味します。監督のインタビューでは絶望と希望が背中合わせとなり、2人は鏡として話していた。そして鏡を突き破った、と語っていました」と明かした渥美。さらに、チゴンが作ったケースの中身の意味についても渥美流解釈を添えると、観客の多くが「なるほど!」と声に出す場面も。あくまで自身の見解とした渥美は「(渥美流解釈に対し)いやいや、違う。そういう意見もあると思います。でもそういう意見こそ聞きたいです。いろいろな見方ができる映画です」と何度も観て分析し、意味を探りたくなる映画だとしていた。
もがけばもがくほど深みにはまる“ろくでもない世界”で、傷だらけの魂が響き合った彼らが行き着く運命、それは希望なのか、絶望なのか。ソン・ジュンギの新境地、ホン・サビンやキム・ヒョンソのフレッシュな魅力は、映画館の大きなスクリーンで浴びるのがおすすめだ。
取材・文/タナカシノブ